コネチカット州のサンディ・フック小学校で発生した無差別乱射事件も、19世紀後半にロンドンを震撼させた「切り裂きジャック」にしても、事件の背景に政治的動機が見えないため、無差別殺人や猟奇殺人というカテゴリーに分類されている。

 逆に、大量殺人を起こさなくとも、テロリストとして社会に不安を与え続けたケースもある。公民権運動が盛んだった1960年代には、白人至上主義組織が黒人への襲撃や、黒人の集まる教会への放火を繰り返した。彼らの行動はテロリズムとして認知されており、アメリカ各地にある民兵組織や白人至上主義組織もテロ団体として考えられるケースが少なくない。

 また、政府や特定の人種に対する不満だけがテロを引き起こすわけではない。テロリズムとして分類されるケースのなかには、保守派キリスト教徒が人工中絶を行うクリニックや医師に対して放火や銃撃を仕掛けたというものもあり、特定の信念のもとに行動を起こし、結果的に社会を不安に陥れたという点でテロリズムと考えられている。

――歴史を紐解くと、テロリズムはアメリカという国家が誕生して以来、何百年にもわたって存在してきたものです。これまでに4人の大統領が暗殺され、20世紀初頭にはウォール街でアナーキストによる爆弾テロも発生しています。アメリカ人が現在のようなテロに対してここまで脅えるようになったのは、やはり911同時多発テロの影響が大きかったのでしょうか?

 テロに対する不安というのは冷戦時代にも存在していた。ただし、アメリカ国内に限って言えば、白人至上主義組織のテロが圧倒的に多かった。

 911同時多発テロが起こってからは、「ジハード」という言葉に注目が集まり、実際にニューヨークやカリフォルニアでパキスタン人やイエメン人によるテロ計画が捜査当局によって未然に防がれたこともあって、イスラム教徒は反米でテロを起こしかねないといったイメージが定着してしまった。

 しかし、歴史的には白人至上主義者や、アメリカ政府に不満を持つ非イスラム教徒のアメリカ人によるテロ計画も多数あり、彼らのテロ計画が未遂に終わったというケースも少なくないのだ。

 興味深いことだが、911同時多発テロをのぞけば、アメリカ国内外におけるアメリカ人に対するテロは冷戦時代と比べて減少傾向にある。しかし911テロがアメリカ人に与えた衝撃はあまりにも大きく、テロリズムに対する漠然とした脅えは冷戦時代よりも増大していると言わざるを得ない。

 911テロはテロリズムの歴史の中で最も衝撃的なものの一つであり、テロの瞬間を世界中の人間がライブ中継で目撃したことも前代未聞だった。その時のショックや繰り返しテレビなどで流された映像が、アメリカ人のテロに対する脅えを最高潮にまで引き上げるスイッチとなったのだ。