総合商社の伊藤忠商事がバブル崩壊以降手控えていたオフィスビル開発事業を再開させる。不動産業界がどん底に沈むなかでの決断。都市部で展開する方針だが、勝算はどこにあるのか――。

 不動産仲介の三鬼商事によると、1月末の東京都心5区のオフィスビルの平均空室率は4.93%となり、12ヵ月連続で上昇。しかもオフィス需要の先行指標ともいわれる新築ビルではじつに26.47%に達する。

 今年も延べ床面積一万坪を超す大規模なインテリジェントビルの竣工がめじろ押しとあって、さらなる需給緩和が懸念されている。

 そんな環境下で伊藤忠が再参入の第一弾として計画するのは、延べ床面積約2800坪の中型ビル。立地は下町(門前仲町)で賃料は都心より割安、交通アクセスにも優れ、設備は大規模インテリジェントビル並みのハイスペックだ。

 子会社の伊藤忠都市開発と組んで今年9月の竣工を予定する。

 この規模の優良ビルの供給は不足しがちで、同社総合開発事業部は「設備の整った丸の内のビルには入れないが、同等のスペックで割安なビルに入りたいというニーズは高い」と言う。実際、企業がコスト削減のため割安なビルへと移転する動きも目立つ。

 とはいえ、伊藤忠本体は1980年代、オフィスビルや商業施設を積極的に開発し、バブル崩壊で損失を被った苦い過去がある。最近の大型案件にも楽観的な見通しで着工し、テナントが埋まらない物件が少なくない。

 ただ、伊藤忠はバブル期のように開発したビルを保有せず、売却の目鼻をつけて開発にかかる戦略を採る。極力リスクを負わないのが前提だ。

 業態を事業投資にシフトした商社の命綱はリスク管理にあり、厳冬下のビル開発でも大きな武器となりそうだ。

(『週刊ダイヤモンド』編集部  山口圭介)