中国での大規模な反日デモから、1年以上が経つ。その間領海を巡る諍いは絶えず、日中両国の冷え込みは過去最悪と言われている。関係改善の動きは見られるものの、政府関係者の往来は減り、ビジネスや文化交流にも影響が広がっている。尖閣諸島などをめぐり、中国が日本に対して度重なる挑発行為を行った結果、「中国人はみんな反日だ」というイメージを日本人に植え付けてしまったかもしれないことは、自業自得と言わざるを得ない。
だが、挑発行為の仕掛け人は中国政府かごく一部の人たちに限られているはずだ。この1年、筆者は中国各地に取材に出かけ、現地で数多くの中国人にインタビューをしたが、店の従業員から嫌味を言われたり、町中で罵声を浴びせられたりしたことは一度もなかった。日本人の間では、もしかしたら実像とかけ離れた「中国人観」が一人歩きしているのではないか。そして、逆もまた然りではないか。「日中の誤解」をテーマに取材を重ねていくと、「お互いにそんなことを誤解していたのか」と驚くような“生の声”が次々と耳に飛び込んできた。日本人と中国人の間に横たわる「不幸の構造」の正体を解き明かす。(取材・文/ジャーナリスト 中島 恵)
「また日本軍が攻めて来る!」
反日デモで聞いた耳を疑う本音
2012年9月18日前後。中国全土の約100都市で反日デモが燃え盛っていたころ。暴徒化した一部の民衆が日系スーパーや日本車を焼き討ちしたことは、私たちに強烈なショックを与えた。
彼らの多くは日常生活に不満を持ち、逆転できない社会構造の中で「負け組」と言われた人々だった。日本人との接点が全くない一般中国人である彼らの中には、真顔で「日中開戦」を心配する人が少なくなかった。
「もしかしたら、また(昔の日中戦争のときみたいに)日本軍が私たちを攻めてくるのではないだろうか……」
日本人からしてみれば耳を疑うような話だが、これが生身の日本人と出会ったことのない中国人の率直な感覚だった。
私はここ数年、「80后」(1980年代生まれ)と言われる20~30代の若手エリート層を取材することが多く、その内容は昨年、前著『中国人エリートは日本人をこう見る』にまとめた。もちろん、私が取材したエリート層の中に、前述のように「日本軍が中国を攻めてくる」などと本気で思っているような人は、1人もいない。彼らは日本の事情も、客観的に知る立場にあるからだ。