賃金の引き上げが重要な政策課題として論議されている。物価を上げるのが重要なのではなく、賃金を上げることが重要だという当然のことが、やっと認識されるようになった。
こうした認識の変化は歓迎したい。問題は、そのための政策である。以下では、賃金決定のメカニズムを考慮すれば、現在考えられている方策が見当違いであることを指摘する。
最近の賃金の動向
日本の賃金は、長期的に見ると低下している。これについては後で分析することとし、まず最近の動向を見よう。
この1年間の現金給与総額の動向は、図表1に示すとおりである。対前年比マイナスの月が多い。
昨年秋以降、円安の進行によって輸出産業の利益は大幅に伸び、株価も上昇した。しかし、賃金の動向はそうした傾向とは無関係であることがよくわかる。
他方、円安によって消費者物価は上昇している。このため、実質賃金指数の対前年比は、今年の7月以降マイナスの伸びを続けている。8月はマイナス2.0%であり、9月はマイナス1.2%であった。
つまり、労働者の生活は貧しくなっているわけだ。アベノミクスの成果とは、国民を豊かにすることではなく、ごく一部の人々に株高を通じて巨額の利益をもたらしただけであったことを、この数字がはっきりと示している。