首都圏では、しばしば黄色い看板のラーメン店の前に長い行列ができているのを見かけることがある。その店こそ、ラーメンファンの間では知らない者はない「ラーメン二郎」である。ラーメン二郎の本店は慶應大学三田キャンパス前にあり、多くの人に愛されてきた。
ラーメンではないラーメン
私が初めて三田のラーメン二郎へ出かけたのは20年以上前のことである。
その当時から長い行列ができていた。
もともとこの店には独特の掟があるという噂は聞いていたのだが、軽い気持ちで出かけた私は、すぐに後悔することになった。ある程度行列が進むと、店の中で客が注文している様子が見えるのだが、そのシステムがさっぱりわからないのだ。
不安にかられた私は、すぐ前に並んでいる学生風の男性に尋ねた。「ここではどういうふうに注文すればいいんでしょう?」。しかし、「見ていればわかりますよ」とあっさり受け流されてしまった。
そうこうしているうちに、自分の順番が段々迫ってくる。前の人たちの注文を聞いていると、大とか小とか言っている。席につくと店主から注文を聞かれたので、適当に「小」と答えた。ところが、盛り付けの段階になって、また店主が客に注文を聞きだした。一体どうなっているのであろうか……。
今度は「大ダブル野菜ニンニク」だの、長い「呪文」のようなものを次々に唱えている。ますます混乱してきたが、とりあえず隣の客と同じく「大ダブル野菜ニンニク」と言ってみた。すると「えっ、大?」という声とともに、主人の手が止まった。他の客が一斉に私のほうを向く。恥ずかしい。どうも最初に麺の量「大・小」を決め、盛り付けの段階でトッピングを指定するらしい。「小」と言いなおすと、主人は黙って野菜とニンニクをのせ、カウンターの前に置いた。