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Y字路と聞くと左右の道に意識が向きがちだが、真ん中の角地を意識して見ると、興味深い建物や空間が存在する。その魅力を国内アカデミズム初の若き“Y字路専門家”が紹介しつつ、角地で大繁盛を続けるラーメン二郎三田本店の秘密にも迫っていく。※本稿は、重永 瞬『Y字路はなぜ生まれるのか?』(晶文社)の一部を抜粋・編集したものです。
「鈍めのY字路」に佇む
サラリーマンの憩いの場
Y字路は角度によっても分類できる。といっても、目視ではそこまで細かく角度は測れないものなので、ざっくりで十分だ。ここではとりあえず、90~60度を「鈍めのY字路」、60~30度を「標準的なY字路」、30度以下を「鋭いY字路」、90度以上を「鈍角Y字路」と区分する。30度ずつ分けたのは、キリがいいからという以上の理由はない。
「鈍めのY字路」は、写真だとぎりぎり左右が見通せるかどうかといった程度のY字路だ。現地に行くとたしかにY字路っぽさはあるのだが、写真を撮ってもぱっと見では直角の交差点とさほど変わらない。ただ、これくらいの角度であれば隅切り(編集部注/角地の一部を切り取って道路にすること)が弱くとも角にそれなりの平面ができるので、ファサードを強調したデザインにしやすい。
写真1は、京都・西院にある折鶴会館という建物である。京都市内は碁盤の目の町割りだが、ここは阪急京都線が斜めに通っており、このようなY字路が形成された。折鶴会館は、近隣で営業していた屋台を収容するかたちで1959年に建設された集合建築である。京都には、こうした「○○会館」と名づけられた集合建築が多い。長らくサラリーマンの憩いの場として親しまれてきたが、近年は若い人びとにも人気を博している。

角度の広いY字路において、写真を撮ったときに左右の道が見通せるかどうかは、当然ながらカメラのレンズに依存する。広角レンズであれば、鈍めのY字路でも難なく左右の道を見通すことができるのだろう。しかし、遺憾なことに私はまともなカメラを持ち合わせていない。本記事に掲載している写真のほとんどは、スマホのカメラで撮影したものだ。