次期日本銀行総裁に政府は武藤敏郎副総裁を指名する可能性が高いとの報道が相次いでいる。民主党には根強い反対論もあるため不確実性はあるものの、仮に武藤氏が総裁になれば、現在の9人の日銀政策委員のうち7人は4月以降も変わらない。しかも武藤氏はワンマン的なリーダーシップで引っ張るのではなく、各政策委員の見解をくみ取りながら金融政策決定会合を運営していくだろう。

 現時点で予想されるメインシナリオとしては、日銀は2008年内は政策金利を現状(0.5%)で維持し、米国経済に緩やかながらも底打ちの傾向が現れれば、来年2009年1~3月期に0.25%の利上げを行なうだろう。ただし、サブシナリオとして、中国や中東への日本からの輸出が急減するなど、企業収益の悪化が懸念されるようになれば、6月前後に日銀は利下げに傾くかもしれない。とはいっても、政策金利の水準は今でも十分低く、引き下げ余地は限られる。新総裁は「手持ちカード」が非常に少ないという悩ましい状態で船出を迎える。

 ところで、日銀政策委員会は上述のように9人の委員が多数決で判断を下している。FRBのFOMCでは、最大7人の理事(現在は2人空席)と5人の地区連銀総裁が投票権を有する。地区連銀は12あるが、ニューヨーク連銀以外は1年ごとの輪番制である。

 一方、欧州中央銀行(ECB)制度には現在15ヵ国が加盟している。理事会では、6人の役員と15ヵ国の中央銀行総裁の計21人が投票権を持つ。今後加盟国が増加したらどうなるのだろう?

 じつは2003年2月の理事会でその対応策が決定されていた。16ヵ国以上になったら、部分的な輪番制が導入される。6人のECB役員は常に投票権を持つが、加盟国の投票権は15に固定される。16~21ヵ国までは大と小の2グループに、22ヵ国以上になると大、中、小の3グループに分けられる。

 たとえば加盟国が27になると、大5ヵ国のうち4ヵ国(頻度80%)、中14ヵ国のうち8ヵ国(頻度57%)、小8ヵ国のうち3ヵ国(頻度38%)に投票権が割り当てられる。つまり、加盟国が増加すると、中小国の発言力は低下するのだ(加盟国が18を超えるまでは導入延期の可能性もある)。

 ただし、国のグループ分けは、GDPに金融機関の規模を加味した基準で評価される。このため人口44万人のルクセンブルクが2240万人のルーマニア(いずれも2003年当時)よりも上位のグループに入る。不自然だという批判もメディアからは出ているが、利害調整の知恵の1つなのだろう。

(東短リサーチ取締役 加藤 出)