ビジネスにも大いに活用される
「ニューロビジネス」とは?

 筆者は現在「ニューロビジネス」という分野の専任として、マレーシアの大学で働いている。ニューロビジネスは、まだ確立していない分野だが、あえて定義するならば、ニューロエコノミクス、ニューロマーケティングに加え、社会認知神経科学、社会心理学、組織行動などの分野のニューロサイエンス的研究を含む、総合的な分野と言えるだろう。

 筆者は、現在認知神経科学者や心理学者、神経経済学者と共に、この分野の確立のために実験環境の整備やセミナー、新しい授業プログラムの開発などを行っている。

 それらの作業の中で実感するのは、この10年ほどのニューロサイエンスの目覚ましい発達だ。そして、それが基礎研究だけではなく、現実のビジネスでも大いに活かされているのである。

 現在のところ、現実に最も役立っている分野はニューロマーケティングだろう。消費者の購買決定の際の脳の働きから、どのようなプロモーションや広告が効果的かを分析し、実際の商品開発に役立てている。

 残念ながら、そういった産学協同研究のほとんどはアメリカで行われており、日本を含むその他の地域はまだまだ遅れている。だが、筆者らがマレーシアでニューロビジネスの研究拠点をつくろうとしている理由は、今後アジアこそがマーケティングの中心地となる可能性が高いからである。

 今回は、ニューロマーケティングの研究が実際に役立っている例を紹介したい。実際には、それらの研究の中には、まだはっきりと結論が出ていないものも多い。本日紹介するのは、それらの中でも比較的一般に受け入れられているものだ。

 1970年代以降、アメリカの会社、特にプロダクトを売る会社は、自社の製品の広告がどの程度、購買に効果があるかに興味を持ってきた。1990年代までは、そういった広告効果の研究は、質問紙やインタビュー調査などの方法で行われてきたが、近年では、企業が脳科学者をリクルートして、脳科学の観点から研究することが多くなってきた。