働き過ぎると頭が悪くなると言ったら、みなさんはびっくりするでしょうか。これ、半分は冗談ですが、半分は本気です。
心理学者ユングの説にしたがって考えると、人間が持っている脳機能をフル活用していたのはむしろ、狩猟・採集時代ではないかと思うほど。農耕が始まり、産業革命によって近代化が進むにつれ、私たちは脳機能の一部しか使わなくなってきています。
今回はまず、そうした「脳と働き方の関係性」から書くことにしましょう。
現代人は狩猟・採集時代よりも
脳機能が退化している?
心理学者のユングによると、人間の脳にはもともと4つの機能が備わっているそうです。その4つとは思考(Thinking)、直感(Intuition)、感情(Feeling)、感覚(Sensing)。言われてみればなるほど、ですよね。私たちは常に、この4つの機能を時に応じて使い分けながら日常生活を送っています。
考えてみたら、かつての狩猟・採集時代はこの4つの機能をフル回転させなければ、人間は食べものを調達することができませんでした。獲物を捕るにはまず、思考力を使って作戦を練らなくてはなりません。一人では決して狩りはできませんから、仲間を集める必要もあります。仲間と協力しながら狩りをするには、意思の疎通も必要です。言葉がなくても相手の表情から感情を読み取る能力は、ひょっとすると現代人よりも古代人の方が優れていたかもしれません。
狩りの現場では、直感力がモノを言います。獲物の気配にピンと来るかどうかで、狩りの成功率も変わるからです。厳しい自然環境から身を守るには、風に含まれるわずかな湿気さえも敏感に察知しなくてはなりません。視覚・聴覚・触覚などの五感を研ぎすまさなければ生きて行くことさえも難しいのが、彼らの世界です。
翻って、私たちの暮らしはどうでしょうか。日夜、生命の危険に晒されることはなく、狩りをしなくても食べものが手に入るようにはなりましたが、その分、本来持っていたはずの脳機能がだいぶ鈍っています。
IT関連の職場では、論理的な思考力を使うウエイトが非常に高い一方で、感情機能を使う場面はそう多くありません。ものづくりの職人ならば、手や皮膚の感覚は非常に敏感でなくてはならないでしょうが、オフィスワーカーの多くはそうした感覚を使わなくても、済んでしまいます。
こうして考えると、文明化に伴う職業の専門分化は、私たちがもともと持っていた脳機能をある部分では奪う方向に働いているのかもしれません。これは同時に、ジャングルでサバイバルするのとはまったく別のリスクが増大したことも意味しています。
脳機能の一部しか使わない生活が長く続くと、どういうことが起こるでしょうか。たとえば、最近よく耳にする「キレやすい人」。これは、感受性豊かだからキレやすいのではありません。事実はまったくその逆で、ふだん、脳の感情機能をあまり使っていないがためにキレやすい。要するに、その部分の脳が十分に鍛えられていないため、ちょっとしたことで「カッ」となってキレやすくなるのです。