英国の原子力発電所の運営会社を買収し、原発の新規受注を確実にした東芝。しかし、“原発ゼロ”に苦しむ国内の原発部隊はなぜか冷めていた。そこには東芝独特の構造問題が浮かび上がる。

「総額1兆円を超す大型案件が待っている。(2018年度の目標である)原発事業の売上高1兆円達成の足がかりにもなる」。昨年末、東芝幹部の1人は上機嫌にこう話した。

 東芝が進めてきた、英国の原子力発電事業会社ニュージェネレーション(ニュージェン)の買収。狙いはその経営権を握ることで、ニュージェンが建設を計画している英国内での原発の受注に結びつけようというものだ。

 今や原発の新規受注は世界中で激しい争奪戦が繰り広げられている。フィンランドの原発事業会社フェンノボイマの案件では、東芝が優先交渉権までこぎ着けたにもかかわらず、獲物を目前にしてロシアにかっさらわれた。ロシアの原発メーカーである「ロスアトムの猛攻勢にやられた」と、別の東芝幹部は思い出すたびに苦々しい表情をのぞかせる。

 今回も、ロシアや韓国からの関心が取り沙汰される中で手繰り寄せた、“悲願”の案件獲得。ニュージェンに折半出資している2社、スペインの電力大手イベルドローラから、ニュージェンの株式50%、仏電力大手GDFスエズから株式10%、合計60%を総額約1億ポンド(約170億円)で取得することで合意にこぎ着けた。

「年度内には決めたい」と口癖のように語っていた田中久雄・東芝社長の悲願はかなったものの、別の課題が山積している
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 東日本大震災をきっかけに国内では“原発ゼロ”状態が続き、当面は新増設もお預けと逆風も強かった原発事業だけに、さぞかし意気が上がっているかというと、「事はそう単純ではない」と、東芝の原発事業に詳しい関係者は指摘する。そこには東芝の原発事業における構造問題が横たわる。

 原発には、BWR(沸騰水型軽水炉)とPWR(加圧水型軽水炉)という二つの炉型がある。東芝はBWRのメーカーで、東京電力の柏崎刈羽原発や中部電力の浜岡原発などに設備を納めてきた。ところが、06年にPWRメーカーの米ウェスチングハウスを買収したことで、両方の炉型を扱うことができる実質世界唯一の原発メーカーとなった経緯がある。

 ニュージェン買収に動いていたのは、このウェスチングハウスの部隊であり、PWRの建設を確実にした。しかし、目下のところテコ入れが必要なのは、国内の原発事業、つまり、東芝本体のBWR部隊なのだ。