仕上げには、
「イエス」か「ノー」かを聞いてはいけない

 交渉が終わりに近づいた時、すなわち、最後の抵抗要素がすっかり見えなくなったと考えられた時に、強調する要点を変えなければならない。「イエス」か「ノー」を顧客に向かってたずねる必要はもはやない。買うか、買わないかという質問の時機はすでに通り越したものと考えてよい。顧客は買うことに決めたもの、しかもあなたから即座に買ってくれるものと決めてかかって差し支えない。

 したがって、この際は、「どちらの品になさいますか」という質問を行なうべき時である。むろん売り込む商品、サービスのいかんによって色彩、値段、型などの点について選択の自由は与えねばならない。

「どちらをお求めになりますか」というたずね方を避けて、「どちらがご希望ですか」という質問を行ない、買うかどうかをたずねずに、どちらの品に決めるかという話の進め方を、相手がほとんど気づかないうちにしなければならない。

 選択の可能性が非常に多いものの場合には、数種のものに限り、その中から選ばせることが大切である。あまり多くのものの中から選択させることは、気持ちを混乱させ、迷わせる結果を引き起こし、「発芽」した買おうとする気持ちを失わせないまでも、ややもすると、決定を後日に延ばしてしまう恐れが多分にあるからだ。

 私は見事なダッシュボードに目をやりながら、私自身がよく営業に際して使う戦術――「どちらにお決めになりますか」戦術を耳にした。そして、この戦術が保険を売り込む場合だけではなく、自動車の営業にもまた効果的に活用できることを知ってうれしく思った。