「超ひも理論」も統計学で実証できるかもしれない…!?
北川 というわけで、理論物理をやっていたときはまともに統計学の勉強はしてなかったのですが(笑)、ビジネスの世界に入ってから、統計学と予測モデルの関係性とかは気になりますね。
西内 最近、自分の中でも発見だったのは、予測中心の統計モデルと、洞察中心の統計モデルって、同じモデルでも違う使われ方をしてるんだよね。
北川 予測中心っていうのは計量経済学とか?
西内 そう。計量経済学は伝統的に予測型だね。情報を使って経済を予測しようっていうのは、おそらく天文学のアイデアを経済学にもってきたんだと思う。初期の計量経済学の研究では本当に、天体の動きの周期によって経済を予測しようとしてるんだよね。そのあとに生物統計学で「ランダム化比較実験」などの手法が生まれて、その考え方が最近、パブリックヘルスなどの領域で経済学者にも取り入れられてきているんだ。
北川 隣り合う州で何らかの条件が違うなど、ランダム化比較実験ができるような自然環境を見つけてデータを比較する、いわゆる「自然実験」ですね。
西内 そう。計量経済学はこれまで、株価とか景気とか直接見たり触れたりできないものを正確に予測しようとして、すごく複雑な数理モデルを発展させてきたんだけど、実験さえできればそこまで精密にモデルをつくらなくても色んなことはわかるかもしれない。
北川 じゃあ、これからは物理学にも自然実験が応用できるかもしれませんね。例えば、超ひも理論(超弦理論)とか。「ひも」の存在を実験で確かめるには、地球スケールのエネルギーが必要と言われていますが、そういうのを自然実験でやったらいいんじゃないですか。
西内 宇宙空間で超新星が爆発したエリアと、爆発してないエリアを比較するとか? すごい発想だな(笑)。
北川 でも宇宙物理学の人からそういう話を聞いたことがないってことは、たぶん無理なんでしょうね(笑)。
西内 いや、まだ宇宙物理学にランダム化比較実験とか、自然実験っていうアイデアが広まってないだけかもよ。
北川 とすると、僕のこのアイデアはノーベル賞ものですね! っていやいや、ないでしょう(笑)。
西内 アイデアはおもしろいけど、実際の観測は非常に難しいだろうね(笑)。統計解析の予測型と洞察型の話に戻ると、洞察型の人は、何かを予測することがゴールというより、そもそも因果関係を説明することに重きをおいてるんだよね。農学や医学で使われる統計学はこっちだけど、彼らは別に正確に小麦の取れ高が予測できたり、正確に寿命が予測できたりしなくてもいいと思ってる。
北川 どうしたら小麦が多くとれるか、どうしたら人が長生きするかということがわかればいいんですね。
西内 そう。その要因はなんなのかを探るために統計学を使う。
北川 おもしろいですね。僕は洞察型だな。なぜかというと、僕は問題を思いつくことが解くことより大事だと考えてるんですよ。そうすると、予測ってそれだけだと全然興奮できません。だって原因はどうであれ、結果さえわかればいいわけでしょう?
西内 楽しくないよね(笑)。
北川 そう! 僕はもっと、誰も解いてない大きな問題を見つけたいんですよ。
西内 僕がデータの分析をするのは、興奮できるかというより、ストレスを無くしたいからだな。以前「毎日それだけデータ分析できるってことは、データが本当にお好きなんですね。将来、世界中のデータを分析したいという夢をお持ちなんですか?」って言われて、唖然としてしまった(笑)。だって、僕はどちらかというと情報量が多いものが嫌いなんだよ。
北川 まあ、啓さんの仕事だけ見ていればそう思われてしまうかもしれませんね(笑)。
西内 いやあ、そうなんだけどね。本当のところはデータが好きっていうより、データが汚いと腹が立つし、たくさんあったら、いかにわかりやすくして、「要するにこれは何」というのを抽出したい。抽出できるとやっとストレスがゼロになる。本来、世の中の情報はそうあるべきなのに、そうなっていないのが気持ち悪いんだよね。
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