また、あるときこんな出来事もあった。園側が、遺族宅を訪れて焼香した際に、遺族が気づかないように黙って弔慰金を仏壇に置いたまま、帰ろうとした。

 園側のこうした不誠実な事後対応が続いたため、遺族は、状況を打破できないかと、私学の監督官庁である宮城県の私学文書課に相談をした。

 ところが、課の担当者は、話は聞いてくれるものの、「うちは法人の許認可を出すだけの部署ですので」と請け合ってくれなかった。「私学は、個々の幼稚園や学校が、公立校の教育委員会のような設置者であり、私学法では、行政が経営主体者の学校法人に対して指導監督する権限はないんです」とも、説明された。

 電話をかけて相談した1人、当時6歳だった長女・愛梨ちゃんを無くした佐藤美香さんは、電話でこんなことを言われたという。

「こちらから切り出してもいないのに、『今後お金の話になると思いますけれども、うち(県)は関係ないので、幼稚園に直接言ってください』と言われたんです。私は、どうしたら真相や背景を知ることができるかの相談がしたかっただけなので、お金の話をされて驚きました」

 そこで今度は、私立幼稚園の管理運営や幼児教育などを調査研究している全日本私立幼稚園連合会にも電話してみたが、まともなやりとりにならない「理解に苦しむような」対応だった。

 結局、遺族の話を聞いてくれる機関はどこにもなかった。学校管理下で子どもの命が失われても、私学の場合は、調査や検証はすべて学校法人の裁量次第。たとえ調査が実施されても、情報は、学園内部や行政への形式的な報告にとどまり、何かに活かされることはない。この事実に、佐藤さんは愕然とした。

「事故を教訓に防災教育につなげたい」
そんな遺族の思いと裏腹に動く行政

日和幼稚園訴訟を生んだ「私学」の壁 <br />園児遺族が遭った3年間の“たらい回し”日和幼稚園から歩いて数分の事故現場
Photo by Y.K.

「いったい誰が、日和幼稚園や山元町(私立ふじ幼稚園や町立東保育所=東日本大震災で避難中に津波に被災して園児が死亡)の情報を把握して、幼稚園の安全管理の教訓や再発防止策に生かすんだろう?」

 遺族が早々に提訴へと踏み切ったのは、少しでも事実の解明を裁判に期待したいという思いがあった。また、和解ではなく、判決を得ることにこだわったのは、教育現場の安全管理のあり方を世に問うためだった。

 一審判決後の記者会見でも、遺族たちは今後の方向性について、こう語っている。

「教育の現場の方々に防災教育に取り組んでいただきたいが、どうしたらやってくれるのかわからないので、私も勉強していかなければと思っている。どこがやってくれるのかを調べて、出向きたい」(当時6歳の春音ちゃんを亡くした母親の西城江津子さん)

「大きな災害が起きたときには、情報収集をし、情報共有をし、命を守る行動をしていかなきゃいけないんだということは、伝えなきゃいけないと思っています。これからだと思っている」(佐々木さん)

 その言葉通り、遺族たちは専門家に会うなど、少しずつ動き始めている。