コミュニケーションはユーモアから始まる

 さて、驚きはさらに続きます。働き始めてわずか1ヵ月後に、なんとスーシェフになってしまったのです。当時、働いていた中にもうひとり日本人がいて、彼がスーシェフ、徳吉シェフはそのサポート(セカンド・ピアット担当)をしていました。その人が、営業中にケンカをして出ていってしまったのがきっかけでした。
 シェフから「おまえ、サポートしてたんだよな、できるか?」と聞かれた徳吉シェフ。答えは決まっています。「何でもできます!」「じゃあ、明日からスーシェフだ」というわけ。
 ここでどう答えるかで、その後の道は変わります。「ちょっとまだ僕には早い」と言う人は勝負すらできない人、なんとかなると思って「できます、何でもできます」と言えるのが上にいける人。有言実行ではないですが、その一言を発することで、自分を追い込んでいる部分もあるのでしょう。
 言葉もできないのに、スーシェフを任されてしまい、まわりのイタリア人ともより密にコミュニケーションをとらなければならない。ということで、それから3年ほどは語学学校に通ったそうです。

「これは真空にして冷凍しろだとか、料理のプロセスを説明するのは、最初は大変でしたね。でも、使うのはだいたい同じ言葉ですから、2年くらいたったらもう、まったく問題はなくなりました」

 キッチンの中で起こることは、それほど変化はありませんから、使う言葉は限られています。私が『レバレッジ英語勉強法』(中経出版)でも書いたとおり、狭い範囲のことを徹底的に勉強すれば、実は語学を習得するのはそれほど難しくありません。
 そして、人とのコミュニケーションにおいて語学よりも大切なこと。徳吉シェフいわく、それはユーモアです。

「真面目にイタリア語がしゃべれるだけじゃダメで、彼らがどういうことで笑うのか、どういうことが楽しいのかを理解する。それができて、本当のコミュニケーションがとれると思うんです。イタリアのギャグや、ボケとツッコミを勉強するのに一番いいのは、コメディ映画ですね。みんなが笑うところで全然笑えなかったら、盛り上がらないでしょう」

 もうひとつ、イタリアで成功する秘訣として絶対に書いておいてほしいと言っていたのは、現地人の彼女をつくること(笑)。そのおかげで、言葉の微妙なニュアンスが理解でき、語学が上達したそうです。

~『なぜ、日本人シェフは世界で勝負できたのか』より~

*徳吉洋二シェフは2013年に「オステリア・フランチェスカーナ」を退職され、自身の店を出すべく準備中です。
 

◆『なぜ、日本人シェフは世界で勝負できたのか』バックナンバー

第1回 なぜ、日本人シェフは世界で勝負できたのか

第2回 同じ土俵で戦わず、自分の強みで勝負する
【フランス「レストラン ソラ」吉武広樹シェフ】(前編)

第3回 日本人であることのメリットのほうが大きい
【フランス「レストラン ソラ」吉武広樹シェフ】(後編)


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四六並製/336ページ
定価1400円(+税)

本田直之『なぜ、日本人シェフは世界で勝負できたのか』

Michelin France 2014年で、日本人シェフの星付きレストランは合計20軒に!
日本人は欧米にあわせるのではなく、元来もっている日本人のよさ、強みをいかして海外に羽ばたく時代がきた!

■どうすれば海外で活躍できるのか?
■いま注目されている日本人の強みはなにか?
■ビジネスパーソンはどのように応用すればいいのか?
世界で活躍するシェフ15人のインタビューと世界で活躍するために必要な34のスキルをまとめました。

フランス
◎パッサージュ53 佐藤伸一シェフ
日本人シェフとして初めて、フランスで二ツ星を獲得
「焦っても、ただやみくもになにかをしない」

◎Keisuke Matsushima 松嶋啓介シェフ
日本人最年少でミシュランフランスで一ツ星を獲得
「競争なんかしないほうがいい」

◎レストランソラ 吉武広樹シェフ
ミシュランフランス 一ツ星
「同じ土俵で戦わず、自分の強みで勝負する」

◎レストラン・ケイ 小林圭シェフ
世界的に有名な三ツ星レストラン「プラザアテネ」元スーシェフ
「選択肢が狭いからこそチャンスがある」

◎オ・キャトルズ・フェブリエ 新居剛シェフ
ミシュランフランス 一ツ星/トリップアドバイザー、リヨンで1位
「デメリットをメリットだと考えられるか」

◎ラ・カシェット 伊地知 雅シェフ
ミシュランフランス 一ツ星
「なこかい、とぼかい、なこよかひっとべ」

◎ジョエル・ロブション 須賀洋介シェフ
ロブション氏の懐刀
「発想を転換すれば、大変が大変でなくなる」

◎プティ・ヴェルド 石塚秀哉オーナーソムリエ
日本人オーナーシェフ初のミシュラン1つ星「レストランひらまつ」の元シェフソムリエ
「海外で得たものは、技術ではなく人間としての成長」

◎シャングリ・ラ ホテル パリ ラベイユ 佐藤克則ソムリエ
ミシュランフランス 二ツ星レストラン セカンドソムリエ
「自主的に動かない人間に棚ボタはない」

イタリア
◎オステリア・フランチェスカーナ 徳吉洋二シェフ
ミシュランイタリア三ツ星/「ワールド50レストラン」で世界第3位 スーシェフ
「考えろ、考えろ、考えろ」

◎ダル・ペスカトーレ 林 基就ソムリエ
イタリアでもっとも長く三ツ星を維持しているレストランのプリモソムリエ
「あえて困難な道を選ぶ」

◎マグノリアレストラン 能田耕太郎シェフ
ミシュランイタリアで日本人として2人目の一ツ星
「活躍するために必要なのは『強みとビジョン』」

スペイン
◎Koyshunka 松久秀樹シェフ
日本人として初めてスペインミシュランで一ツ星を獲得
「『アク』を持って生きよう、ナチュラルでいよう」

日本
◎レストラン カンテサンス 岸田周三シェフ
ミシュランガイド東京 フレンチの日本人オーナーシェフ唯一の三ツ星
「まわりがやらないからやらないという発想は間違い」

◎日本料理 龍吟 山本征治シェフ
ミシュラン東京で3年連続三ツ星/「ワールド50レストラン」日本料理で最高位
「もっとあるだろう、もっとあるだろうと思う」

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