悪化する日中双方の国民感情
背景にナショナリズムの高まり
日中が軍事的衝突に至る可能性は50%。先日私が参加したソウルのシンポジウムで日中韓関係に関するパネル・ディスカッションに先立って、主催者がおよそ500名の聴衆にタブレット端末で投票を求めた結果である。韓国の有識者たちの意識には驚くが、国際社会で欧米やアジアの多くの人々が尖閣諸島を巡り日中で軍事衝突が起こる蓋然性は決して低くないと思っていることも事実なのだろう。
日本人は戦後、日本を巻き込んだ戦乱の可能性は全く考えてこなかったし、現在、中国と軍事的衝突に至ると思っている人は多くはない。海外では何故、日中の軍事衝突の蓋然性が高いと見られているのであろうか。その背景を考えてみたいと思う。
まず、日中における双方に対する国民感情の悪化が火を噴くのではないかという懸念がある。中国は共産党政府樹立後、ソ連、インド、ベトナムといった近隣諸国と国境線を巡り軍事衝突を繰り返してきた国であり、中国の歴史にとっても領土の一体性を維持することは軍事力行使を辞さない「核心的利益」と考えられている。
また、中国は侵略を受けた日本に対する警戒心がとりわけ強く、中国人にとって歴史における屈辱の100年はアヘン戦争ではなく日清戦争での敗北から始まったと言われている。共産党統治の正統性も対日戦争に勝利したことに求められており、天安門事件以降の「愛国教育」の中心概念は抗日戦争の歴史教育である。
安倍政権の歴史問題にかかわる発言や安倍首相の靖国神社参拝を契機に習近平政権が「抗日戦争勝利記念日」や「南京虐殺記念日」を制度化したのも、政権が国内の反日ナショナリズムと一体化していることを示していると見ることが出来よう。
日本にも強い反中ナショナリズムが出てきている。各種の雑誌、ネットなどに氾濫しているのは激しい嫌中、中国蔑視の言葉であり、中国の国内リスクの高さを強調する議論である。
日本では、1972年の日中正常化から30年近くは与野党も世論ベースでも、中国との友好関係を支持する意見が大勢であった。ところがバブルがはじけ、いわゆる失われた20年の停滞期を迎えた間に中国は急速に台頭し、GDPで日本を追い越した。余裕を失った日本人の不満が反中感情に結び付いたとしても不思議ではない。