野菜事業で26億円の赤字を出し敢え無く撤退。出した辞表はオーナーの柳井正から“金を返せ”と突き返された。あれから10余年。その柚木治氏率いるファッション衣料ブランド「GU(ジーユー)」が気を吐いている。オンシーズンに低価格でトレンドを身に着けられるというコンセプトが若者を魅了したのだ――。孤高さすら感じさせるユニークネスと、多くの者の共感を呼び揺り動かすビジョン。一見、相矛盾する要素を兼ね備え、圧倒的な価値を生み出す“バリュークリエイター”の実像と戦略思考に迫る連載第3回後編。(企画構成:荒木博行、文:治部れんげ)

ファッションを、もっと自由に。<br />26億円赤字撤退からの“倍返し”(後編)<br />――ジーユー・柚木治社長

ファッションを、もっと自由に。26億円赤字撤退からの“倍返し”(前編)を読む

 売上高580億円、利益50億円(※取材時。直近に発表の2013年度業績は売上高837億円、利益76億円))。急成長を続ける低価格のファッション衣料ブランド「GU(ジーユー)」を率いる柚木治氏には実は、同社リーダーとしての登用を辞した経緯があった。前編ではダイエーなどGMSで単にユニクロより安い衣料を売るという事業モデルを脱し、ジーユーが独自の個性を身に着けた経緯を見た。後編ではその後の同社の成功の経緯と柚木のキャリアヒストリーを見ていく。

「ユニクロは優等生のお兄ちゃん。
 ジーユーはドジでやんちゃ、だけど可愛い妹」

 柚木のポリシーは「迷ったら、怖い方を取る。走りながら猛烈に考える」。2011年春には、「be a girl」というファッションに訴求したカプセルコレクションを打ち出す。「カプセルコレクションっていうと意味がありそうでしょう。実際は準備期間が短くて小さく始めることになったんですけれども」と笑う。

 同年秋には、AKB48の前田敦子を口説き落としてテレビCMの放映に踏み切った。この時、ジーユーの店舗数は150。本来なら店舗数が倍ないとテレビCMは割に合わない投資になるが、商品面だけでなく、広告宣伝面でも思い切ってリスクを取ったことになる。翌2012年春は、銀座に旗艦店をオープンし、知名度を一気に高めた。このシーズンも、ゆるパン、マキシワンピースなど「トレンドのど真ん中」を商品化し続けている。