50代も半ばに近い森山は、この会社に入る前にもいくつかの会社を経験して苦労を重ねている。工専機械科の出身。スポーツは何でもという筋肉質の引きしまった身体をしている。

 沢井の質問に、森山の顔が緊張した。一瞬のとまどいがあった。が、何かを押し切るように口を開いた。

「ホンネで言っていいのですか」
「もちろん。それを聞きたくてお互いの貴重な時間をさいているんだから」
「では、申し上げます。簡単なことなんです」
「ほう、簡単なこと……」

「そうです。要するに、当社の鋳物の技術レベルが低いということです。
 私は仕上課長ですが、私のところへは前工程の鋳造課で鋳込んだ鋳物が流れてきます。
 話をわかりやすくするため極端な言い方をすれば、欠陥がまったくない製品ばかり流れてくれば、仕上課などほとんど要らないのです。
 それだけコストが下がり、納期も短くなります」

「うむ、理屈のうえではそのとおりだね」

「ところが当社の実態は、非常に欠陥の多い製品が流れてくるのです。
 仕上課で溶接補修したり、グラインダーで削ったり、手間ひまかけて仕上げて検査に流します。

 たとえば1ロット30個のものがあるとします。そのうち25個が合格して、5個が再補修で返されます。
 もう一度手を入れて、今度は5個のうち3個が合格、2個がまた返される。
 そんなことをしているうちに前工程からは次の新しい製品がどんどん流れてきます。

 仕上作業をしているのは大部分が下請会社の社員たちです。彼らは1日何トン仕上げるかの目方で請負っていますから、量のはかどる製品に手をつけたがります。
 2回も3回も手を入れなければならない面倒なシロモノなんて、やりたがりません。
 何となくあとから流れてきた製品の下積みにされて、所在がわからなくなったりする……」