こうした話を初めて耳にしたAさんは「えっ!」と声を上げた後、しばらく絶句してしまった。流域の自治体関係者として冷静に話していたAさん。そのあまりの驚きぶりに、こちらも仰天してしまった。

最上小国川の河川整備は本当に無理?
ねじ曲げられた学識経験者の意見

 山形県の河川整備についての主張には、おかしな点が他にもあった。その1つが、県が2008年度にまとめた「温泉影響調査」報告書だ。最上小国川の河床掘削による温泉への影響を調査するもので、学識経験者の指導のもとで実施された。その結論は、「河床を掘削することは源泉に対して著しい影響を与える可能性がある」となっている。県はこれを学識経験者の指導の下で得られた最終結論とし、「河床をいじくれば温泉に影響を与えるので、河床には手がつけられない」と住民らに繰り返し説明したのである。

 ところが、住民訴訟で原告側が提出した書面によると、この調査を指導した学識経験者の1人で地質学を専門とする山形大学の川邊孝幸教授(原告の一人)が、結論部分を「何らかの対策を行わない限り、源泉に対して著しい影響を与える可能性がある」とするように求めたが、県に拒絶されたという。つまり、調査結果のポイントは「何らかの対策をとった上で河床掘削を行えば、源泉への影響を抑えられる」というものだったが、県はそれを自分たちにとって都合のよいものに捻じ曲げてしまったというのである。

 治水ダムの計画が持ち上がると流域の河川整備がおざなりになるのは、よくある話だ。河川改修などは行われず、住民は不安な日々を送ることになる。それがダムへの期待感を募らせることにつながり、建設の推進力となる。また、「ダムさえできれば洪水に見舞われることもなくなる」と考えがちとなる。だが、ここに大きな盲点がある。

 そもそも洪水は、2つの種類に大別される。 1つは川の水が外に溢れ出る「外水氾濫」だ。もう1つが、川底が高いことなどにより雨水が川に流れ込まずに溢れる「内水被害」である。洪水の種類によって、とるべき対策も変わる。赤倉温泉でこれまで発生した洪水は、後者の「内水被害」だった。それはなぜか。

 赤倉温泉の旅館などが浸水に見舞われる要因の1つと考えられるのが、川の中に設置されたコンクリートの堰の存在だ。川を横断して設けられた高さ2メートル程のコンクリート構造物で、県が河床の浸食を防ぐ「床止め工」の名目で設置したものだ。