公的年金の財政検証結果を読む
「ホンネのシナリオ」はどれだ?

 6月3日、5年に一度行われる公的年金の財政検証の結果が発表された。今回は、将来の経済のシナリオを8つに分けて、それぞれのケースについて、給付水準の調整が終わる年の「所得代替率」を発表した。

 所得代替率とは、将来時点でその時代の現役世代が稼ぐ所得に対して、厚生年金受給者が受け取る年金額の比率を示したものだ。

 給付水準は、「マクロ経済スライド方式」と呼ばれる調整方法で、年金財政を巡る環境の変化に応じて調整されることになっている。これは大まかに言うと、「年金給付を実質的に1年当たり0.9%ずつ減額する」形で、年金財政の均衡のために必要がある限り減額していく調整方法だ。財政状況が悪い場合は、調整が長引いて、将来の年金給付額がより大きく減らないと財政が均衡しない。

 今回の試算は、経済前提によって、どの程度まで減額したところで年金財政が均衡するかを計算したものだ。

 経済前提の置き方によって、調整が終了する年と所得代替率が変わることになる。前者は、2043年(ケースB)ということもあれば、2058年(ケースG)という場合もある。生産性の向上がバブル期並みまで高まる楽観的シナリオから、年金の積立金が枯渇する悲観的な(だがより現実的な)シナリオまで、8つのシナリオが並んでいる。

 今回、複数のシナリオを提示したことの背景は、過去の財政検証で将来の経済前提を1つに絞って、これが「現実的でない」と批判されたことに懲りて、批判の「的」を絞りにくくしたことと、環境が悪い場合は「所得代替率50%以上をキープする」という従来の約束を将来守ることができなくなることに対する「事前の言い訳」の2つの意味がありそうだ。

 これをどう読んだらいいのかをズバリ言うなら、「年金はこのように大丈夫であり、その前提で年金運用を考えるべきだ」というお役所の「建前」は、シナリオEだ。