投資契約・株主間契約があれば、
「つらいときも一緒に乗り越えられる」
――最後に投資契約ですが、こちらはかなり普及したようですね。
郷治 もちろんウチも必ず投資契約は結びますよ。
磯崎 小口の資金をたくさんのベンチャーに出すタイプのベンチャーキャピタルだと、投資契約を結ばなくても、リスクがポートフォリオ的に分散されているという説明ができる場合もあるかも知れません。しかし少なくとも、1件1件が1億円以上といった大口の投資をするベンチャーキャピタルが投資契約や株主間契約を結んで、ベンチャーのモニタリングやコントロールの権限を持つことをしないというのは、投資家に説明責任が果たせないと思います。
何より、そうした投資契約や株主間契約というのは、何もベンチャーをいじめるためにつくっているわけじゃなくて、「つらいときも一緒に苦難を乗り越える」ためのものだということも、本でも書かせてもらいました。
郷治 その部分は同じ考えですね。必ず投資契約は結ぶんですけど、かといって投資家サイドを守るためだけの契約にしちゃうと当然、起業家の自由度が低くなるので、そこは常に悩みますし、気をつけています。投資家の資金を守らなくてはいけない一方で、それでベンチャーのやる気がそがれたら怖いですよね。何でも事前承認みたいな話にしちゃうと、やっぱりやる気なくなっちゃうだろうし。
磯崎 90年代ぐらいまでは、投資契約を結ぶ風習が日本のベンチャーキャピタルにもなくて、あってもB4用紙1枚を2つ折りにしたものくらいだったそうです。やはり投資契約はあったほうが、お金が入りやすいということでしょうね。きちんとした仕組みがないと、お金を出す側としても安心して出せないので、「そういう下地はできてきた」という感じじゃないかと思います。
郷治 ですけど、無体な要求をしているような契約もまだあって、たとえばIPOをしなかったら「金を返せ」とか「起業家が株式を買い取れ」というのはちょっとひどい。
磯崎 いろいろなベンチャーキャピタルに聞くと、表向きは「最近はもうそんな契約はやってませんよ」とおっしゃるんですが、担当者によっては、悪気なく昔の古い契約書をコピーして使いまわしていたりするので、そうした条項が紛れ込んでいることもあります。ベンチャーは気をつける必要があると思います。
郷治 そういうベンチャーキャピタルにこそ、『起業のエクイティ・ファイナンス』をぜひ読んでいただきたい。ウチで今度「UTEC Venture Partner Program」といって、起業家候補者の人たちを集めて、ワークショップをやるんですけど、そこでもこの本を課題図書の1つに指定しました。
磯崎 いいですね、その試み。ありがとうございます!
(後篇に続く)
【新刊のお知らせ】
◆磯崎哲也 『起業のエクイティ・ファイナンス』
2010年に発売されるや、ベンチャー関係者のバイブルとなった『起業のファイナンス』の続編。ベンチャーが活況を呈し、M&Aも一般的になった結果、起業をめぐるファイナンスも優先株式等を使った複雑なものになってきた。そうした実情に対応し、本書ではより専門的なエクイティ・ファイナンスの実務手続きを解説する。
ご購入はこちらから
[Amazon.co.jp][紀伊國屋BookWeb][楽天ブックス]