米国発の金融危機が世界を恐怖に陥れている。いかなる混乱が、どれほど続くのか、今の時点では誰にも予見しがたい。それでは、金融危機収束後の世界を構想することは可能だろうか。池尾・慶応大学教授は、「2010年代は、世界中が低成長に陥り、質素で退屈で憂鬱な時代になる」と予測する。(聞き手・辻広)

池尾和人
池尾和人(いけおかずひと)
昭和28年1月12日京都市生まれ。京大経済学部卒。京大経済学博士。岡山大助教授、京大助教授、慶大助教授などを経て、平成7年より慶大経済学部教授。

――米国発の金融危機が、異様な速さで進展している。

池尾 今回の金融危機は、1990年代の日本のそれに比べると事態の進展が非常に早い。その差は、金融システムの違いによって生じている。銀行による相対型金融中心の日本に対し、市場型金融中心の米国のほうが、危機の波及、進展が速いのは当然だ。

――9月29日、米国下院議会は、7000億ドルの公的資金を投入する「金融安定化法案」を否決、株式市場は暴落した。米国の金融危機対応は、迷走しているように見える。

池尾 そうだとしても、米政府の危機管理能力に一定の信頼を置く以外に、実際上われわれにできることはない。

 確かに、あまりに早い事態の進展に比べ、政策対応の“相対速度”は遅れ気味ではあるが、“絶対速度“は依然としてかなりのものだ。米下院は、ブッシュ政権の救済案を否決したけれども、「単に失敗したとして済ませるには重大すぎることであるので、さらなる努力を続けていく」とポールソン財務長官は言っている。

 こうした対処の努力を見守るしかない。われわれがとやかく言っても、所詮野次馬的なものでしかあり得ない。

――この金融危機の収束までの見通しは。

池尾 それは、私には分からない。もっとも情報を持ち、政策決定権限を持っている米政府の担当者でも、明確な見通しは持ち得ないままに事態に対処しているところだ。それを横で評論家的に予想しても、繰り返しになるが詮のないことだ。それよりも、危機の収束後の世界がどうなるかを構想し、早めにそれに備える準備をしたほうが賢明ではないか。

――危機収束後の世界は、どんな情景なのか。

池尾 危機の前と同じはずはない。危機の収束は「元の鞘に収まる」ことを意味しない。米国の住宅価格が早々に底打ちしたとしても、元通り価格が急上昇していくということには当分ならない。