弁護士会の意見は
「個人からファンドへの出資は原則禁止」!?

――日弁連の「適格機関投資家等特例業務(金融商品取引法第63条)に関する意見書」にも驚きました

磯崎 弁護士さんというのは、投資被害にあった人を助けるのはもちろんですが、一方で、ベンチャーやベンチャーキャピタルを助け、憲法上保障された経済活動の自由を守るべき立場の人でもあるはずです。日本弁護士連合会はそうした弁護士さんたちの連合会なわけですから、本来であれば、企業活動や経済に詳しい弁護士さんの意見も入れたうえで、投資家の保護と経済活動への影響の配慮のバランスの取れた提言をすべきだと思うんですが、「個人からファンドへの出資は原則として一切禁止すべき」というひどく偏った意見になってしまっています。

郷治 日弁連からの金融庁への提言は、現在の規制案よりもっと厳しかったんですよ。個人投資家への勧誘は原則禁止、という内容です。それだけの内容で、どういう人が被害にあったかというのは全然書いていない。「消費者保護」という大義名分には、誰も反対しませんし、その概念自体は重要なことですけれども、ちょっとやり過ぎです。そもそも、消費者を騙してお金をまきあげるという、「刑法で罰せられてもかまわない」と思っている確信犯たちに、金商法でこのような規制をつくったからといって対処できるのか。未公開株詐欺をするような悪徳業者は、どんな規制をしようが、それを潜り抜けてまた新しい方法で騙すだけですよ。
 僕らは金融庁だけじゃなくて日弁連にも意見書を出して、どのような類型の人たちが悪徳業者の被害にあったのか示してほしいとか、日弁連はすべての弁護士が登録しなければいけない責任ある組織なんだからベンチャーに詳しい弁護士の意見もきちんと集約したうえで政府に意見してほしい、と提言しているんです。まだ何の返事もいただけていませんが。

磯崎 今回の意見書を書かれた弁護士さんは、「ファンドをやっている人は全員悪いやつだ」と思っている可能性もあるんじゃないか、とも考えてしまいますね。
 レオス・キャピタルワークスの藤野英人さんのような、今ではベンチャーを熱烈に応援してくれる一流の投資家でも、「大学時代には起業家って悪人ばっかりで、お金の亡者みたいなやつらがベンチャーをやっているんだろうと思っていた」ということを話されています。また藤野さんが東京証券取引所で学校の先生に向けて講演をしたときも、先生方から「ベンチャーって全部、悪い人がやっているんだと思っていました」といったことを言われたそうです(苦笑)。
 知らないというのは恐ろしいことで、人間というのは、自分が接したことがないもの、新しいものについては、どうしても「怪しい」と感じてしまうんですね。そこは、ベンチャー側としては今後、もっときちんと社会とコミュニケーションをしていかなきゃいけないと思いました。
 とにかく、いいことをやっている人たちのほうが断然多いわけです。ベンチャー全体では、この十数年間に10兆円単位の新しい価値を生み出していますし、将来につながるベンチャーのコミュニティも、ここ数年で急速に発展してきています。ベンチャーは日本経済で一番成長している「若芽」のような部分なのです。その最も成長している部分に水や栄養(資金)が通わなくなってしまうというのは絶対まずいと思います。