――そうした社内の仕組みが整ってきた一方、新しいことにどんどん挑戦して、ダメなら止めればいい、という進取の精神は変わりません。社風でしょうか。芸人養成学校のNSC(吉本総合芸能楽院。通称New Star Creationの略)も、設立前は社内でも「芸人が育てられるのか」と反対論が結構あったと聞きます。

 芸人さんは従来、師弟制度のなかで芸を仕込む以外に、人間としての教育もなされてきたので、そんなもん学校行って誰が教えるか知らんけども大丈夫なんか、と。そういう声は随分あったんです。学校だけの収支を見ると少なくとも2~3年は赤字やとわかってたし。月謝払わへん子もいたしな(笑)。NSCの生徒が舞台に出るようになった後は、彼らの楽屋の作法とか勝手が違いますから、師匠とお弟子さんとで過ごしてた人たちは楽屋に寄りつかなくなったりね。実際、問題はいろいろありました。

 でも時代の移り変わりというか、師匠連中もお弟子さんを取る経済的・精神的負担を担いきれなくなってきたし、NSCの1期生(ダウンタウンやハイヒール、トミーズなど)が成功例に恵まれた幸運もあって、定着してきましたよね。

 よくできたシステムだと思いますよ。芸人目指して入ってきて、夏場までに半数になって、1年経って卒業までこぎ着けた子らでも、吉本興業からの仕事はほとんどありません。オーディションの場は劇場であって、お客さんが次また観たいかどうかを判定するわけです。自然と売れてファンがつく子もおるし、淘汰されてしまう子もいる。我々じゃなくお客さんに決めてもらう実力主義です。

――そうした劇場を複数持っているのが吉本興業の強みのひとつですね。今後は、地上波やイベント以外にCSテレビや携帯、ネットなど多メディア展開を社長就任時から課題として挙げられてました。進捗はいかがですか。

 お笑い以外に、スポーツ選手や元政治家など、さまざまな分野の人たちに吉本興業に入ってきていただいてますよね。最近だと、西武ライオンズから石井一久君が基本給の安いなか社員になってもらいましたけど(笑)。

 ひとつの世界で実績を上げた人は周囲に影響も与えるし、そういう幅広いジャンルの人がライブで情報発信して活躍できる場を提供しながら、海外展開や地方の活性化、デジタルコンテンツにつなげていければと考えています。その基地になる劇場というのは、この7月にも2ヵ所(埼玉県大宮と静岡県沼津)オープンして合計11ヵ所になるんですが、これは吉本独自の強みですよね。

 デジタル事業の収益化は見えにくいですけど、COWCOWの「あたりまえ体操」のネタがYouTubeを通じてインドネシアで大流行した例もありますし。デジタル用のコンテンツを制作したり、直接的な収益につながる仕組みをつくるまで今はいきませんけど、どこから火がついて広がって行くかわからないので、幅広くチャレンジしてる状態ですね。