バングラデシュはじめ世界中の貧困地域の高校生に東進ハイスクールの仕組みを使った映像授業を行う税所篤快氏と、彼が先輩起業家と慕う白木夏子さんとの特別対談後編。税所氏が「自分のために生きる」ことを真正面から捉えるようになったエピソードとは?白木さんが成功を決意する理由とは?
大人の期待に応えて駄目になった事業
税所 夏子さんの新刊、『自分のために生きる勇気』というタイトルを見たとき、ああ、本当にそうだったなあ、と思って。
白木 何かあったのですか?
税所 自分のために生きなかったがゆえの、大きな失敗体験があったんです。「本当にやりたいこと以外はパフォーマンスを発揮できない」ということを痛感しました。2011年ごろ、バングラデシュでの教育援助の成功を受けて他の会社と組んで事業を行うことになったのですが……。
白木 日本の会社と、バングラデシュにおける教育事業を一緒に行う、という話でしたよね。
税所 はい。自分以外の――そのときは「社会や大人」の期待に応えなきゃ、「それらしく」しなきゃと思って、間違った方向に気張ってしまったんです。当然、パフォーマンスが急激に落ちただけでなく、楽しくなくなってしまって。結局その事業は立ち消えてしまいました。
白木 人を満足させることが目的になると、ブレてしまうんですよね。HASUNAも周りから「こういうブランドにしてほしい」「こういう展開をしてほしい」と期待していただくことはとても多いですが、それをすべて叶えることは不可能ですから。
税所 他人の意見は聞き入れないんですか?
白木 期待してご意見いただけるのはありがたいことです。でも、私が信じることをやらないと、楽しくないし続かないんです。税所くんもそうだったと思いますが。
税所 そうですね……。
白木 HASUNAは、人にも環境にも配慮する「エシカル」という部分にだけフォーカスされることも少なくありません。けれど、私はラグジュアリージュエリーのブランドをつくって、当たり前のように社会貢献をしていたいと思っています。「もっとエシカルを打ち出して社会に訴えてほしい」と言われても、それは私のやりたいこととは違うわけですよね。
税所 たしかに!
白木 もちろん、意見は一度受け取って咀嚼しないと、すべてに反発していたら独りよがりになってしまいます。けれど、一度受け止めた意見を受け入れるかどうかは別の話。「人は自分のモノサシでモノを言う」と思って、聞き流すことも必要です。
税所 その言葉を昔の自分に聞かせたかったです……。夏子さんは昔からそういう考え方だったんですか?
白木 小学校のころから「人の話を聞かない力」はすごかったですよ(笑)。いつも別のことを考えたり、宇宙とか深海とかの妄想の世界にいたりして。だから、忘れ物も深刻でした。私からしたら、「どうしてみんな人の話を聞けるんだろう?」と不思議だったのですが。
税所 そういう夏子さんだから、自分のために生きられたんですね。
白木 いえ、一度は自分の夢を親の反対で諦めていますから、私だからというわけではないと思います。でも、そのときの後悔が大きくて、「これからは自分のやりたいことをしよう」と心に決めました。もうあんな思いはしたくないので。
税所 僕もそうです。もう、絶対、自分のやりたいことしかやりません(笑)。