「自動車業界において、当面ポジティブな話題は望むべくもない」

 ある大手自動車メーカーの関係者は苦渋を滲ませる。

 円安や新興市場における販売増などの追い風を受け、2008年3月期は軒並み増収増益を達成した自動車メーカー各社。とりわけ彼らの利益体質は磐石に見えた。主要3社の営業利益を見ると、トヨタ自動車が前年比1.4%増の約2.3兆円、日産自動車が1.8%増の約7900億円、ホンダに至っては12%増の約9530億円。過去最高益を実現した企業も少なくない。

 しかし、ここにきてその「成長神話」に陰りが見え始めた。今期(09年3月期)については、各社は一転して「大幅減益」を予想しているのだ。

 その落ち込みようは尋常ではない。たとえば、トヨタの営業利益は前期比29.5%減、日産が同30.5%減、ホンダが同31.8%減という予想だ。主要3社にスズキ、三菱自動車、富士重工、マツダを加えた大手7社の合計では、じつに1兆5000億円規模の営業減益予想となる。

 いったいなぜこのような事態が起きているのか。

 それは、今年度に入ってますます深刻化している原材料価格の高騰、円高、北米市場の減速といった「三重苦」が、各社の利益を予想以上に圧迫しているためだ。

 言うまでもなく、円高や原材料価格の高騰に悩んでいるのは、自動車業界だけではない。鋼材1トン当たり3~4割の価格アップ圧力、昨年と比べて10~15円も円高が続く現状では、彼らが苦境に陥るのも無理はない。

 しかし自動車業界にとって最大の不安要因と言えば、何といっても各社が利益の半分以上を稼ぎ出す「北米市場の急減速」である。

今年は「1500万台割れ」か?
落ち込み続く新車販売

 「サブプライムショックに端を発する金融不安やガソリン価格の高騰により、北米の個人消費は冷え込んでいる」(杉浦誠司・HSBC証券調査部シニアアナリスト)。特に住宅市場と相関傾向が強い乗用車の販売台数は、昨秋以降、住宅の低迷に合わせてジリジリと減少し続けているのだ。