「大手がやろうったって無理だからね──」。際コーポレーションの中島武会長兼社長は自信たっぷりにこう語る。同社は、民事再生手続き中で、ラーメンチェーン「珍珍珍」(サンチン)などを全国に35店展開する康和食産の再生に乗り出した。
中華料理レストラン「紅虎餃子房」などを展開し、売上高約250億円を誇る際コーポは、メニューや業態開発力が高いことで有名。そのノウハウを活用することで、中華料理店を展開し、料理人による店内調理を基本とするなどの点で共通項が多い康和食産の再建を引き受けた。
もともと中島会長は、リーマンショック以降、いっこうに回復の兆しが見えない業界に危機感を覚え、中小外食企業専門の再生ファンドを立ち上げる構想を持っていた。単にカネを出して配当を求めるのではなく、出資先の厨房に入って一緒に鍋を振り、メニュー開発や業態開発に取り組むというものだ。
業界ではここ数年、大手が経営破綻した中小をのみ込む再編が進んできた。ただ、それは業界内のごく一部。約25兆円の外食市場(弁当、惣菜など中食を除く)のほとんどを占める中小には、経営が行き詰まっても手を差し伸べる企業など現れず、再編対象にすらならないことが多かった。資本力のない外食店はつぶれていくのみ。いきおい、市場は縮小を続け、業界の活気は失われる。
市場シェアを伸ばしたい大手にしてみれば、売上高数十億円程度の中小を傘下に収めても、なんのインパクトもなければ、株主に評価もされない。なによりも、セントラルキッチン(食品加工工場)による効率化と大量出店によって急成長を遂げてきた大手が、店で地道に鍋を振る料理店の再生ノウハウなど持ち合わせているはずもない。
これまで中島会長の元には際コーポのノウハウを当てにした金融筋などから、月に10件程度の再生依頼が持ち込まれ、なかには名の知れた上場企業も含まれていた。
「当社を中心としたファンドを立ち上げることは決まっているが、正式に立ち上げる前に案件が来てしまった。その第1号がサンチン」(中島会長)であった。
すでに第2号案件も動き出しているという。まもなく本格的に立ち上がる際コーポの“鍋振り”ファンドは、低迷する外食業界の光明となる可能性が高そうだ。
(『週刊ダイヤモンド』編集部 片田江康男)