優れた経営者が必然的に市場を見誤る理由

 14インチのハードディスクが全盛のとき、小さな8インチのディスクを発売した企業は、大型コンピューターではなく、デスクサイドに置くミニコンピューターに市場を見出しました。ミニコンピューター製造者には、小さいことは大いに価値があったからです。

 数年後、8インチのディスクは容量が増え、大型コンピューターの低価格市場を侵食していき、最後は14インチのメーカーすべてが撤退に追い込まれました。8インチの製品はミニコン市場で生き残り、性能向上で14インチを侵食したのです。

(1)は過去と同じ「記憶容量の大きさ」で製品の評価が下される延長線上の変化です。ところが、(2)は容量ではなく「サイズ(コンパクトさ)」という別の基準で評価される変化です。(1)は既存客に高く評価される一方、(2)は新市場以外では販売できない変化です。クリステンセンは、この2つを次のように区別しています。

(1)=持続的技術(評価基準が同じ変化)
(2)=破壊的技術(評価基準が違う変化)

 持続的技術は、現時点での顧客から高く評価されるため、顧客ニーズを正確に理解しているマネージャーや経営者は高い将来性をその技術に見出します。

 逆に(2)の破壊的技術は、なぜその新製品を評価しなければいけないか、既存の顧客には理解できない存在です。これにより経営者は(2)の技術に魅力を感じないのです。したがって、既存顧客の価値観をしっかり理解しているマネージャーほど、まったく新しい市場を開拓する「破壊的技術」を避けることになってしまうのです。

大企業は市場の最上層で行き場をなくし、ベンチャーに敗北する

 記憶容量で劣る小さな8インチが、新たな市場を発見したことはいくつかのメリットがありました。その一つは、市場には強力な競合相手がいなかったことです。

 既存の優良企業は、大型コンピューター市場をがっちり押さえており、14インチの大きさにおける記憶容量の増加技術も高いことで、つけ入る隙がありません。8インチの新市場は、容量が少なくていい代わりに、当時は価格も低く利益も少ない業界でした。上位市場にいる優良企業にはうま味がなかったのです。

 結果、低い利益率ながらも競争の少ない新市場で急速に売上を拡大することが可能になり、その利益で技術向上をしたことで、上位市場攻略の準備が整ったのです。下位市場から上位市場を狙う新興企業は、低い利益率に慣れているため、上位市場の攻略では、既存の優良企業よりも価格競争などに強い傾向があります。

 そのため、競争のない下位市場からのし上がってきた企業に大手も惨敗するのです。こうして優良企業と大手顧客が見向きもしなかった新技術により、業界の勢力構造がひっくり返されてしまうのが、「イノベーションのジレンマ」の仕組みです。