東京大学医学部を卒業後、同大学病院脳神経外科に入局した私は、悶々とした日々を送っていました。旧態依然とした組織の論理。いつしか出世レースに巻き込まれていく同僚。そして目の前で失われていく命。医療への思いが人一倍強く、性格も激しかった私はどうしても組織に馴染めず、自分が理想とする医療を実現するには自らの病院を持つしかない、と思うようになりました。
これはちょうど、大企業に勤めるビジネスパーソンが、硬直化した組織に嫌気が差し、起業を決意するのと同じ流れだと思います。
そして1995年、私は東京都八王子市に北原脳神経外科病院(現・北原国際病院)を開設しました。医療法では「ベッド数20床以上の入院施設を持つ医療機関」のことを病院と呼び、それ以下は診療所やクリニックと呼ぶことになっています。私は周囲の反対を押し切り、クリニックではなく、いきなり病院を起ち上げました。個人で10億単位の資金調達(借入)をしての開設です。
八王子の病院では、大学病院時代には到底実現できなかったような、さまざまな改革に着手してきました。詳しくは本文に譲りますが、病院のみならず八王子という街全体を変えていく、かなり大胆な改革です。
しかし、まだ足りない。ほんとうに抜本的な改革に着手しようとすると、どうしても日本という国の医療制度そのものが足かせになる。本物の改革に乗り出すなら、これまでの医療を全否定するくらいの法改正が必要になってくる。
この社会を変えるのは
「誰」なのか?
ここで考えていただきたいのは、「社会を変えるのは誰なのか?」という命題です。
法改正が必要なら、政治家になるしかない。法律レベルで世の中を変えられるのは、立法府に属する政治家だけだ。
多くの方はそう思われるでしょう。しかし、政治家に社会を変える力はありません。とくに現在、衆議院は小選挙区制を軸とした選挙制度をとっています。これは選挙区の上位1名のみが当選できる制度です。上位数名が当選するかつての中選挙区制であれば、有権者の3分の1が賛同する大胆な少数意見を唱えることも可能でした。
ところが、小選挙区制の下では有権者の過半数、実質的には有権者のすべてに「いい顔」をしないと当選できません。
結局、いまの政治家にできるのは「世の中を変えること」ではなく「変わってしまった世の中を追認すること」だけなのです。