習近平は“党の命運”を安倍晋三に託すか?<br />APECを前にした最新日中関係論考【前編】<br />――国際コラムニスト・加藤嘉一11月にAPECが開かれる雁西湖 Photo by Yoshikazu Kato

澄んだ空気に青い空
APECの舞台、雁西湖

習近平は“党の命運”を安倍晋三に託すか?<br />APECを前にした最新日中関係論考【前編】<br />――国際コラムニスト・加藤嘉一かとう・よしかず
1984年静岡県生まれ。日本語、中国語、英語で執筆・発信する国際コラムニスト。2003年高校卒業後単身で北京大学留学。同大学国際関係学院大学院修士課程修了。学業の傍ら、中国メディアでコラムニスト・コメンテーターとして活躍。中国語による単著・共著・訳著は10冊以上。日本では『われ日本海の橋とならん』(ダイヤモンド社)、『いま中国人は何を考えているのか』(日経プレミアシリーズ)、『脱・中国論—日本人が中国と上手く付き合うための56のテーゼ』(日経BP社)などを出版。2010年、中国の発展に貢献した人物に贈られる「時代騎士賞」を受賞。中国版ツイッター(新浪微博)のフォロワー数は150万以上。2012年2月、9年間過ごした北京を離れ上海復旦大学新聞学院にて講座学者として半年間教鞭をとり、その後渡米、ハーバード大学ケネディースクールフェロー、同大アジアセンターフェローを歴任。2014年夏からは米ジョンスホプキンス大学高等国際関係大学院の客員研究員として、ワシントンDCを拠点に“日米同盟と中国の台頭”をテーマにした研究・発信に挑む。米ニューヨーク・タイムズ中国語版コラムニスト。世界経済フォーラムGlobal Shapers Community(GSC)メンバー。趣味はマラソン。座右の銘は「流した汗は嘘をつかない」。
Photo by Kazutoshi Sumitomo

 7月中旬、北京市懐柔県雁西湖という場所を訪れた。

 北京市街から車で1時間ほど行ったところに雁西湖はある。到着すると、スモッグが消えてなくなっていることに気づいた。青い空と白い雲。湖の水面上には波がほとんど立っておらず、その場の静けさを一層際立てていた。空気は澄んでいる。

 湖の畔には別荘が立ち並んでいた。私に付き添ってくれた現地の関係者によれば、現役を引退した国家指導者たちの療養地になっているという。

 湖の反対側にやってくると、辺りは喧騒に包まれていた。道の両脇には人工的に植えられた樹木が聳え立っている。道路や建物、そしてゴルフ場などが建設中だった。どう表現していいか分からない形をした『日出東方酒店』(Sunrise Oriental Hotel―筆者訳)は、私に北京五輪開催直前における突貫工事の現場を思い出させた。

 11月、ここ雁西湖でアジア太平洋経済協力会議(APEC会議)が開催される。会場の入り口には公安の車が数台停まっていた。厳重なセキュリティーが敷かれている。

「会議まであと3ヵ月。国家の威信がかかった国際会議だ。万全の準備をしなければならない」。懐柔県の政府関係者は私にこう語った。APEC会場整備のために不可欠だった現地住民の住居立退き作業はほぼ完了したという。政府のカネで家が新しくなったり、外装がきれいになったりした住民たちは単純に喜んでいた。