これらの施策は、一見、商品の直接的な販売促進に結びつかない。また、ツールの貸し借りまでさせたのでは売上も減少してしまうと懸念されると感じる人も多いだろう。しかし実際には、前述の取り組みによりDIYの新たな潜在顧客が増え、さらにツールの貸し借り、ひいては近所同士の交流を促進することによってDIYがより高頻度に行われることをドライブさせている。B&Qが提供するリアルとデジタルのコンテンツが、「DIYは身近なことであり、自分もできるんだ!」という意識を芽生えさせているのだ。冒頭の表現を借りるなら、「ドリルが安いという理由で訪れる場所」から「DIYを学ばせてくれることで穴を開けたくなる(結果、ドリルを買う)場所」へ、顧客のB&Qに対する意識が変わったのである。その結果、B&Qの顧客数は増加し、売上も増加しているという。

 コンテンツマーケティングは有益なコンテンツを提供することで顧客にロイヤリティを持たせる役割を持つと先に述べたが、その目的の実現のためには、必ずしもデジタル領域に留まり続ける必要はない。これら一連の施策は、リアルとデジタルのコンテンツを跨ぎながら、B&Qとその親会社であるキングフィッシャーグループがブランドの核となる価値と規定している“BETTER HOMES, BETTER LIVES”(あなたの家が良くなるほど、あなたの生活も良いものになる)を顧客に伝えている。

 B&Qのケースは、顧客に有益な情報をコンテンツ化し、該当するブランドが特定分野の専門家であることを丁寧に伝えることの重要性を教えてくれる。重要なのは、デジタル領域だけに留まるのではなくリアル領域も跨いでコンテンツを創りあげることである。その融合が、顧客の記憶に強く刻まれるブランド体験を生み出してくれるのだ。

One on Oneを意識したブランド体験を創り出すストーリーが
強いブランドを築いていく

 紹介した2つのケースは、いずれもマスメディアに依存しないコンテンツマーケティングへの取り組みだ。グローバル市場でのブランディングでは、文化や価値観の異なる顧客を対象とするため、マスメディアを通じた全方位型のマーケティングが必ずしも有効でないのは当然かもしれない。だからこそ、潜在顧客の興味・関心のレベルをアップする、既存顧客のロイヤリティをさらに強固なものにしていくというコンテンツマーケティングの発想がブランディングの重要な要素となってくる。

「日本ブランド」は顧客との絆を築けているか?<br />――グローバルに向けたコンテンツマーケティング戦略

 この発想は、顧客の確かな信頼が不可欠なB2Bの世界でも有効に機能する。CRMソリューションを中心としたクラウドコンピューティング・サービスを展開する「セールスフォース・ドットコム」が運営する「Customer Success」という顧客支援サイトは、製品やサービス情報に留まることなく、イノベーションのトレンドやマーケティング、営業戦略などを紹介する多様なコンテンツを多く発信している。またリアル領域では、「新しいカタチで顧客とつながる。世界最大のクラウドコンピューティング・イベント」と称して、ロックコンサートと業界のショーが統合されたマーケッター向けの大型イベント「Dreamforce」を筆頭に、パートナーや導入検討中の顧客に向けた様々なセミナーをきめ細かに開催している。商品・サービスに関連する情報はもちろん、顧客にとって有益な周辺情報、そしてブランドの考え方やメリットを伝えるためのリアルな場というコンテンツを提供し、顧客に信頼と身近さと魅力を感じさせるブランド体験を創造している。