日本の鯖の質が低いわけではない。銚子で『極上サバ』という大きく育った鯖を食べたことがあるが、脂の乗りもよく格別の美味だった。食べるためにわざわざ銚子を訪れる価値のある味である。しかし、そうした成長した鯖はそう多く獲れない。休漁などの一応のルールはあるものの、巻網で鯖をとりつくす乱獲が続いていて、鯖が大きく育つまで待つことができないのだ。

 こう書くと漁業者が悪いような気がするが、そうとも言い切れない。銚子が獲らなければ、他所が獲るだけだからだ。コモンズの悲劇の典型的な例だ。

 以前『ニッポン 食の遺餐探訪』という連載のなかでも書いたが、それを防ぐには個別割り当て方式に代表される漁獲規制を導入するべきだ、という意見がある。個人的には僕も賛成だ。しかし、濱田武士氏の『漁業と震災』という労作を読むと「なるほど」と納得させられる。濱田氏の意見は「個別割り当て方式を導入しただけで、問題が解決するわけではない」というものだ。

 『漁民みながそのような行動をとれば(中略)大型魚の乱獲が発生し、価格暴落に繋がることにならないであろうか。そもそも水産資源の減少の原因は漁獲の行き過ぎだけではない。海そのものの環境劣化の進行などにも求められる』

 おそらくどちらも正しいのだろう。規制をつくらない国が駄目だ、という意見は正しいが、有効ではない。『失われた20年』が証明しているように、この国で政治が有効に機能したことなどないからだ。さらには企業の力が大きくなるうえで国家のプレゼンスは低下の一途をたどっている。こうした状況で国に期待するのは愚かだ。

 とりあえず今、大事なことは「我々でできること」と「国がやるべきこと」を分けて考えること。国が動くのには時間がかかるので、我々は我々でできることを考えるべきで、それは例えば持続可能性のある食材を選択して食べるということだ。

 月並みな結論かもしれないが、妙な正義感で漁業者や魚の需要が伸びている諸外国を批判するよりはよっぽど有意義だ。資本主義の世界では、消費者は力を持っている。その力をどのように行使するか、ということを考える余地はまだある。

※参考文献※

図解入門業界研究最新食品業界の動向とカラクリがよーくわかる本
水産庁『水産白書』平成23年度
水産庁〈太平洋クロマグロの資源評価結果と管理強化の取り組みについて〉
NHKくらし☆解説 「秋の味覚 サンマに異変?」2014年09月02日 (火) 
水産海洋学入門 海洋生物資源の持続的利用 水産海洋学会編