たしかに、法律の制定や改正について、国民は国会にその権限を任せました。しかし、憲法は別です。憲法改正については決して任せていません。国会ができるのは、その案を国民に示す(発議する)ことだけなのです。こうした目で憲法の条文を見てみると、なるほどその通りになっています。

○憲法
第96条 この憲法の改正は、各議院の総議員の3分の2以上の賛成で、国会が、これを発議し、国民に提案してその承認を経なければならない。この承認には、特別の国民投票又は国会の定める選挙の際行はれる投票において、その過半数の賛成を必要とする。
2 略

憲法改正をめぐる議論に欠けているもの

 みなさんがお寿司屋さんに入ったとします。すると大将が「今日はカンパチにしなさい」とか、「カッパ巻きはやめて鉄火巻きにしなさい」なんていってきたら腹が立つに違いありません。「決めるのは俺だ!」なんて怒りだすお客さんもあるはずです。何を食べるかを決めるのはもちろんお客さんです。お客さんそっちのけで、店側が食べさせたいものを押し付けることはおかしな話です。

 ところが、近頃の憲法改正をめぐる政治家の議論はそんな感じに思えるのです。もし、国民が望んでないものを政治家が押し付けようとしているのなら……。

 憲法改正の場合、二重の意味で国会は慎重でなければなりません。まず、あらゆる法令や処分などの土台となる指示書なのですから、法律のように頻繁に改正するわけにはいきません。さらに、政党や政治家の動き方も慎重にならなくてはなりません。

 そもそも政治家は憲法という指示書を突き付けられた側の存在です。「その指示書では問題がある」というのは政治家が言い出すのではなく、国民の側から湧き起って初めて議論が行われるのが本当なのです。広い意味では、そうした問題点を国民に気付かせることも政治の役割なのかもしれませんが、国会で議論する前に、その問題を丁寧に国民に説明して、国民全体の問題として共有することを先にしなくてはならないはずです。

 いつだったか憲法改正の発議の要件を「総議員の3分の2以上の賛成」から「総議員の3分の1以上の賛成」に改正する動きが一部の政党で盛り上がったことがありました。そのときも、やはり、この視点が欠けているように感じられました。