「人の命を救うこと」は社会貢献の大きなテーマだが、近い将来の日本においては、「人を殺すこと」が社会貢献の重要なテーマになるかもしれない――。9月28日に放送されたNHKスペシャル『老人漂流社会“老後破産”の現実』を見ながら、そんなことを考えてしまった。番組ではわずかな年金で暮らしていて、満足な介護や医療サービスが受けられない老人たちが次々と紹介された。

生活をギリギリ切り詰めて暮らす
貧困にあえぐ独居老人たち

 秋田県に住む女性の年金は月2万5000円。夫は15年前に病死し、ひとり息子も46歳の若さで亡くなった。古い自宅に住んでいるので家賃はかからないようだが、光熱費を支払うと残りは約1万円。食費に回すお金がほとんどないので、近所の野山で野菜を採り、川で魚を捕り、なんとか生きている。狭心症の持病があるので、病院代、薬代も必要だ。

 東京都港区に住む男性は、月10万円の年金を受け取っているが、家賃だけで6万円かかる。もっと家賃の安いアパートに引っ越したくても、引っ越すだけの費用がない。40代で独立して事業を始めたが失敗して倒産。貯金がない。電気も止められ、夏は暑さを凌ぐために、昼間は近くにある区立の老人向け施設で過ごす。頭痛の持病があるが病院には行けず、市販の薬を飲むだけ。ここ数年、病院に行ったことがない。節約生活のため、十分な食事も取れない。かつては社交的で明るい性格だったというが、いまの生活を知人や友人に知られたくないので、人付き合いを避けるようになったという。

 高齢化率50%を超える大規模団地に住む女性の年金は月8万円。持病のリウマチが悪化して、痛くてほとんど歩けない。毎朝の掃除や食事を作る介護サービスを利用しているが、その費用が月3万円。その他、家賃1万円、光熱費1万円、夕食の配食サービス2万円、その他の生活費が4万円。毎月の生活には11万円かかるので3万円の赤字。これまでは貯金を取り崩してきたが、それも残り40万円ほどしかない。車椅子を押してもらう介護サービスを頼めば、外の空気に触れることができるが、節約のために頼めない。窓から眺める景色だけが、この女性の外界との接点だ。いつか、病気が治って外を歩けるようになったときに履きたいと、新品の靴を買ってあるが、むくんでしまった足にはその靴はもう入らない。

 日本には現在、独り暮らし老人が約600万人いるが、その約半数が年金収入年間120万円以下で暮らす。そのなかの約200万人が生活保護を受けずに、わずかの年金だけで暮らしているという。

 日本の年金制度は、三世代家族、つまり老人とその子ども、孫が一緒に暮らすことを前提に設計されているというが、同居世帯の数は1980年には60%あったものの、現在はたったの13%だ。当然だが、高齢化社会が進めば、番組で紹介されたような貧困にあえぐ独り暮らしの老人はますます増えるだろう。