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安いけど買い物客は惨めじゃない!
小売大手コストコの非アメリカ的魅力

瀧口範子 [ジャーナリスト]
【第18回】 2008年10月22日
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 また、コストコは広告に1セントも費やさないことでも知られる。「何千万人もの忠誠心の高い顧客がいい噂を広げてくれるのに、なぜ広告が必要か」というのが、コストコの創設者兼CEO(最高経営責任者)のジム・シネガルの口癖である。

 その低価格の基本形の上にあるのが、ヴァリューや宝探しだ。コストコの面白いところは、広い店舗の中のあちこちに高級品が予想外の低価格で配置されていること。その高級品は、フランスのグルメ・チーズだったり、高級化粧品だったりする。空港でなら80ドル以上で売っている化粧クリームが、ここでは50ドルほどで買えたりする。通常価格の約4割も安い値段でそうした掘り出し物の高級品を見つける楽しさが、コストコの大きな魅力になっているのだ。

 安いけれど、惨めではない。コストコのショッピング体験をひとことで言うと、つまりこういうことだろう。コストコの顧客層の年収平均が8万ドル以上と、ウォルマートのサムズ・クラブより2万ドル以上高いのは、コストコがただの安売りとは一線を画したブランドづくりに成功している証なのである。

 シネガルCEOは、反ウォールストリート的な意見を述べることでもよく知られている。「ウォールストリートは、来週木曜日までの儲けしか頭にない。だが、私はコストコをこの先50年以上続く会社にしたい」。

 ある意味では、コストコは日本的な企業だ。従業員の待遇を重視し、報酬や保険制度を充実させ、長年勤務する社員を育てていく。アメリカの大手企業CEOは、何億円相当という目を剥くような報酬を得ているが、シネガルの報酬はその数10分の1の43万ドル。「普通の従業員の何100倍もの報酬を受けるCEOは間違っている」というのが、シネガルのポリシーなのである。

 ウォールストリートからは、利ざやをもっと上げろ、医療費の社員負担を増やせとひっきりなしにプレッシャーがかけられているが、シネガルCEOはこの「非アメリカ的」とも呼ぶべき独自路線を歩み続けているのである。

 だが、そんなコストコも金融危機に“完全免疫”があるわけではない。同社は直近四半期の売り上げで6%の伸びを示したものの、利益はアナリスト予想に及ばなかった。

 また、消費者の間には、倉庫型量販店での買物が必ずしも安くはないのではないかという疑問も広がり始めている。「大量に買い込めば大量に消費するだけ」「大量に買っても、結局大半は捨てることになる」という現象が、最近大学の研究者らによって発表されており、「コストコ効果」の悪しき面があぶり出されている。
 
 顧客にサプライズを提供してきたシネガルCEOが、さて、次にどんな策に打って出るのか。暗い消費社会の中で、これはアメリカ人にとって唯一楽しみなネタである。

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瀧口範子
[ジャーナリスト]

シリコンバレー在住。著書に『行動主義: レム・コールハース ドキュメント』『にほんの建築家: 伊東豊雄観察記』(共にTOTO出版)。7月に『なぜシリコンバレーではゴミを分別しないのか?世界一IQが高い町の「壁なし」思考習慣』(プレジデント)を刊行。

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