1月30日にホワイトハウスの記者会見室で、小型旅客機と軍用ヘリコプターが空中衝突した事故について話すドナルド・トランプ大統領1月30日にホワイトハウスの記者会見室で、小型旅客機と軍用ヘリコプターが空中衝突した事故について話すドナルド・トランプ大統領 Photo:Chip Somodevilla/gettyimages

DEIを廃止する
大統領令に署名

 首都ワシントン近郊のロナルド・レーガン空港付近で1月29日夜、小型旅客機と軍用ヘリコプターが空中衝突し、乗客、乗員など67人の犠牲者を出した。現場での調査が始まったばかりの30日、トランプ大統領はホワイトハウスの記者会見室で黙祷を呼びかけたが、その直後、「多様性を重視する政策がこの事故につながったかもしれない」と証拠を示すことなく、示唆した。

 続いてトランプ氏は「連邦航空局の一部のグループが、白人が多すぎると判断し、バイデン政権にそれを即時変更するよう働きかけた」と述べ、「前の政権が資格(能力)ではなく、多様性の目標に基づいて航空管制官を採用していた」と非難した。

 これに対し、バイデン政権で運輸長官を務めたピート・ブティジェッジ氏は、「トランプ氏の発言は卑劣だ」として、「家族が悲嘆にくれている時にトランプ氏は嘘をつくのではなく、指導力を発揮すべきだ。我々は安全を第一に事故を回避し、管制官を増やした。バイデン政権では死者が出る民間航空機の事故は一度も起きていない」と反論した。

 実は、トランプ氏が一方的に多様性政策と航空機事故を関連付けようとしたのは、バイデン政権が積極的に進めた多様性を含む「DEI」推進政策を廃止することがトランプ政権の優先課題の1つだからである。

「DEI」とは、多様性(D=ダイバーシティ)、公平性(E=エクイティ)、包摂性(I=インクルージョン)の頭文字をとった言葉である。さまざまな人種、民族、文化が集まる移民社会の米国では、これまで企業が多様な人材を公平に採用し、活用するための政策としてこれを推進してきた。

 特にこの4年間はバイデン大統領がDEIを重視していたため、多くの企業では数値目標を設けたりして熱心に取り組んだ。ところが、1月20日に就任したトランプ大統領は、連邦政府とその関係機関のDEI政策を廃止し、多様性研修プログラムなどへの補助金交付を停止する大統領令に署名した。

 トランプ氏はその理由について、「私たちの制度に多様性、公平性、包摂性が注入されたことで、勤勉、実力、平等が“分裂的で危険な優遇制度”に置き換えられ、制度が腐敗した」と説明。そして20日の就任演説で、「今週、私は公私のあらゆる側面で人種や性別を社会的に操作しようとする政府の政策を終わらせる。我々は肌の色に関係なく、実力主義の社会を築く。今日から性別は男性と女性の2つのみというのが、米国政府の公式な見解とする」と述べた。

 つまり、行きすぎたDEIの推進は白人男性(正確には、白人の異性愛男性)に対する逆差別につながるというのがトランプ氏の主張だが、これによってDEIを推進してきた企業は方針転換を迫られることになった。