夜警国家─経済が強い国ほど政治はショボい

 経済が自由放任主義のとき、それに合う最良の政治とは何か? それは「夜警国家」だ。夜警国家って、なんかクールでカッコいい! そんな昔の僕みたいなバカなことを言うな。これはドイツの社会学者ラッサールが、「あれ、政府ってただのガードマンなの?」という皮肉を込めて言った言葉だ。

 夜警国家とは、「政府の仕事は国防と治安の維持のみ」でいいという、メチャクチャ安上がりの政府だ。なぜ、こんなのがいいのか? それは経済がバカみたいに強い国の場合、その経済力をキープすることが、いちばん国益にかなっているからだ。

 つまり、自由放任主義でうまくいっている国ならば、それをキープするため、政治はそれを守るためのガードマンに徹した方が、国は栄えるってこと。

 自由主義国家の政府? やつら、ただのブルジョアのガードマンじゃん。だから政府は、まず軍隊で外敵の侵入に備えつつ、警察力で国内の治安も守る。この二つさえあれば、自由放任経済はガッチリ守れることになる。

 でもこれ、やっていることは本当にガードマンと変わらない。だから、それへの皮肉を込めて「夜警国家」と呼ぶんだ。他にも「小さな政府」とか「消極国家」とかいろいろな表現があるけど、どれもショボい。「おたくの夜警さんは、とても小さくて消極的でクールですね」は無理しすぎだね。もはや褒めていない。とにかく、全部に共通して言えることは、資本主義体制で経済が絶好調なら、政治はジャマするなってことだ。

(※この原稿は書籍『やりなおす経済史』から一部を抜粋・修正して掲載しています)