それでも、図書館開設に情熱を傾けた矢祭の人たちは、せっかくつくった図書館が単なる本の貸し出し機関で終わってしまってはいけないと思っていた。なかでも、町の教育長になっていた高信由美子さんは、「本を通しての子どもの教育を」と、焦りのようなものさえ抱いていた。

「矢祭もったいない図書館」の利用状況は、開館当初の07年度が来館者1万1016人で、翌08年度が1万2223人。そして09、10年度も1万人台を記録していた。

文科省にも認められた「子ども司書制度」
地方創生にとって学ぶべき住民の試み

子ども司書の育成は図書館の使命の1つ

 そんなときだった。高信さんのもとにある人物から電話が入ったのである。「朝の読書運動」を立ち上げた矢祭町出身の佐川二亮さんだった。「文部科学省の企画競争公募に『子ども読書の街づくり事業』というのがあるので、子どもが中心になる企画をつくって応募してみたら」というアドバイスだった。

 高信さんはかねてから「図書館には司書が必要だし、子どもが参加してもいいじゃないか」「夏休みの推奨図書を子どもたちが選んでもいいじゃないか」などと考えていた。こうした思いが佐川さんのアドバイスに触発され、「子ども司書制度」の発案につながっていった。応募した企画が文部科学省に認められ、2009年から全国初の制度としてスタートすることになったのである。

「子ども司書制度」は、小学4年生から6年生を対象に、6ヵ月間に12の講座を受けて「子ども司書」の認定を受けるというものだ。「本の分類」「貸し出しの返却」「本の紹介カードづくり」、さらには「読み語り」や「お話会の本の選び方」などを学び、図書館での実習を経て晴れて修了となる。

 2009年から2013年の5年間で、矢祭町の子ども69人が「子ども司書」に認定され、高齢者施設や保育園で読み聞かせを行ったり、「矢祭もったいない図書館」でボランティア活動をしたりと、地域の「読書推進リーダー」として活躍している。現在は、7人が6期生として研修に励んでいる。矢祭町で生まれた「子ども司書制度」は、全国の自治体や図書館に広がり始めている。

 現在、「子ども司書推進プロジェクト」の代表を務める高信さんは、「子ども司書を通して心の教育ができれば、こんな嬉しいことはありません」と語るのだった。

 金をたくさんかけさえすれば、地域が活性化するというものではない。逆に、使える金が乏しいから地域が廃ってしまうというものでもない。地方創生に最も重要なものは何なのか。「矢祭もったいない図書館」の成り立ちと現在の活動ぶりに、学ぶべき点があるのではないだろうか。