スーパーではなかなか見ることができないタチウオの全身!これを見ると 「太刀魚」という名前を実感できる

 細長い身体、銀色に煌めきながら、まるで侍が日本刀をかまえたように「立って」泳ぐタチウオ。料亭や割烹のメニューで重宝される高級魚は、都心のスーパーでその姿を見かけることは少ないが、熊本ではなじみが深い。県を代表する地魚として熊本県が選定した「くまもと四季のさかな」でもあり、漁獲量も多く沿岸部では昔から日常的によく食べられている。

 熊本県南部の芦北町に位置し、八代海が育んだ海の幸が水揚げされる田浦漁港。芦北町漁業協同組合田浦支所では、一匹一匹ていねいに釣ったタチウオの中から、選り抜きのものを「田浦銀太刀」と名付けたブランド魚として販売し、注目を集めている。

「田浦支所の3分の1の漁船がタチウオ専門。昔からこのあたりは、タチウオ漁が盛んです」と芦北町漁業協同組合田浦支所(旧・田浦漁業協同組合。2013年に芦北漁業協同組合と合併)の野口修さんは語る。

「通称『不知火海』とよばれる八代海は、九州本土と天草の島々に囲まれたおだやかな内海。温暖な気候、山から大地を巡り流れ込む球磨川水系から運ばれた恵みで、栄養豊かな水質のため、魚介類のエサとなる小魚などの生物が多いんです。豊富な餌を食べて立派なタチウオが育つんですよ」

 肉厚で身がしまり、脂がのった田浦のタチウオ。「そりゃあもう、地元の漁師は絶対の自信を持っていますよ。よそのタチウオより、田浦のタチウオは美味しかけんね」と野口さんは胸を張る。

 しかし、それほどまでに漁師たちが誇る田浦のタチウオは、残念なほど認知されていなかった。九州で主にタチウオの産地とされている、長崎や大分に比べると知られていないばかりか、その価格はとんでもなく差があったのだ。

「こぎゃん旨くて上質な、田浦のタチウオが安いのはおかしか」

 組合員たちが、田浦のタチウオの実力をアピールするために立ち上がった。2002年、田浦のタチウオをブランド化することを決めたのだ。

ブランド化は「キラキラ」の徹底から始まった

 ブランド化をするならばと、まずは、タチウオの徹底した品質管理を目指すことになった。

 タチウオの場合、「見た目」もブランド魚として大切なポイントになる。タチウオならではの「キラキラ」。この美しい銀色の輝きを維持することが必要になってくる。タチウオは魚界における「ビジュアル系」なのだ。

 鱗のないタチウオは、そのまま皮ごと刺身にできるので、その銀色に光る美しさは料理の華やかさも醸し出す。巻き網で釣られた場合は、この銀色が剥がれ落ちていることがほとんどだが、一本釣りは味の良さだけでなく、その美しさからも高値で扱われるのだ。

 しかし、この「キラキラ」が厄介な代物。鱗がないタチウオの身体を覆う銀箔は模造真珠や銀紙、マニキュアのラメなどにも使われるグアニンという物質。どこかに体表がぶつかれば、あっという間に変色しシワがよる。迂闊に手で触ろうものなら、勝手に“指紋捺印”状態。扱いがとても大変なのだ。