──うーん、何かとストレスがたまるんでしょうか……。

「日本の伝統文化に興味・関心を持つのは比較的裕福な層だということもあるかもしれません。

 シリコンバレーでは今、IT単体のビジネスではなくてリアル世界のモノやサービスと組み合わせたビジネスモデルに投資していこうというムードがあるらしいんです。それで、盆栽鉢に関しても思ったより反応は良くて、『今さらやきもの?』という感じではなかったですね。みなさん、盆栽のことをよくご存知で、すごく親身にアドバイスしてもらいました」

──日本とは随分、反応が違うような気がしますね。ところで笠井さん、英語は得意なんでしょうか?

「いいえ、ぜんぜんですよ。盆栽と同じでかなり“なんちゃって”です」

──でも、サイトは英語で作っているし、日英両方で発信していますよね?

「日本の鉢を海外へ発信したい一心で勉強もしましたし、サイトに関してはネイティブにチェックしてもらっています。

海外の「盆栽ブーム」で盆栽鉢まで大人気に!<br />日本人が忘れかけた「TOKONAME」の魅力笠井さんが常滑を訪れた際に食べたランチ。これにサラダが付いてかなりボリューミー。喫茶店のスパゲティナポリタンだが、なぜか鉄板の上に卵が敷いてあり、ウインナーソーセージと海老フライが載っている。「常滑の食事は全般に味が濃く、塩気が多い」

 シリコンバレーでつくづく実感したんですが、英語って、じつはそんなにたいした要素ではないんです。問われるのはそこではなくて、『あなたは道ゆく人に鉢を売れますか?』ということの方。それと語学力に関しては、たかだか数年留学したくらいではとてもネイティブには太刀打ちできません。逆に言えば、売りたいモノがしっかりしていてかつ情熱があれば、中学3年生程度の英語力でもなんとかなるものです」

 そもそもから振り返れば、日本の盆栽が世界へと普及していく大きなきっかけは1970年の大阪万博だった。そこからすでに40年以上が経過している。その間、ヨーロッパを中心に盆栽の愛好家は増え続け、ドイツでは「盆栽を知っている」人を含めるとその数は50万人を数える。

 一方で、日本から海外へ盆栽を丸ごと輸出するビジネスはすでに頭打ちを迎えている。1990年頃、ドイツ国内で流通する盆栽の90%は日本産だったが、昨今は、ヨーロッパ原産のものが50%を占めるようになっている。盆栽の“現地化”が進んでいるのだ。

 中国の「盆景」に触発され、日本で発達した盆栽は、世界の人々がそれぞれの文化と風土の中で楽しむ“BONSAI”へと変化した。文化は文明に乗って地球上を回る。時を経て、今度は盆栽を忘れた日本人が、世界からその楽しみ方を教えてもらう番かもしれない。高級鉢「TOKONAME」を巡る現状は、そのことを物語っている。

*盆栽の海外市場動向に関する参考資料
『平成23年度 JAPANブランド育成支援事業報告書』社団法人さいたま観光国際協会

*写真はすべて笠井有紀子さん提供