資産も時期も集中はダメ。
分散して投資をする
野尻 いろいろな観点から話をしてきましたが、資産形成の最大のカギは積立ではないでしょうか。
中野 そうですね。長期的に資産形成を行っていくのであれば、積立が最も有効な手段だと思います。ただ、万能ではありませんよね。積立投資をすれば100%、資産運用の問題を解決してくれるとは限りません。積立投資だって、デメリットはあります。
野尻 基本的に、将来は明るいという前提条件がないと、積立投資は成り立ちませんからね。ずっと下がっていく相場では、いくら積立投資を続けても効果は得られません。だからこそ、長期でみると上がるだろうと予想される「全世界」への分散投資などが効果があるわけですね。
中野 そうです。あとは資産クラスが集中した積立投資も危険ですね。たとえばある国の債券だけとか、エコロジーなどのテーマ型のファンドとか…。何が当たるかは誰にもわからないわけですから、できる限り分散しておくのが有効なのです。
野尻 それでいえば、自社株積立は危険ですよ。私も自社株がすべてパーになった経験があります。(※編集部注:野尻さんは山一証券に在籍し、破たんを経験されています)
中野 それはかなりの金額だったのではないでしょうか? 会社の業績がよくて、給与もボーナスも、株価も上がっているという状態ならいいですが、その逆だと目も当てられない。
野尻 自分の会社へ資産が集中し過ぎということですよね。
中野 資産の集中もこわいですが、購入時期の分散ができるのが積立投資です。そしてこの積み立て自体、ある意味、投資への納得度を高めてくれます。値段が下がっても安く購入できている、と思えますから。
もちろん、底値で一括投資した方が効率が良いという考え方もあるのですが、今が底値かどうかの判断は非常に難しいですよね。
底値を待っていたら、いつの間にか値上がりしてしまい、なお投資できなくなる。そういう問題を無くすには、積立投資しかありません。
野尻 10年間毎月積立をするのであれば、120回も買う機会があるわけですから、1回、買う時の価格が高いか安いかの判断は、全体を通じて見れば120分の1に過ぎないので大したことはありません。そのくらいの気持ちで積立投資と付き合っていくのが良いでしょう。
「ほったらかし」投資で、将来の安心を手に入れる
中野 あと、最後に言いたいのですが、50歳になるまで貯蓄が0円だと、本当に大変なことになります。若い人にとって定年後の生活というのは、あまりにも遠い未来で実感がわかないと思いますが、とにかく今、会社から得ている給料は、自分自身が95歳まで生きていくうえで必要な原資であるということを自覚して、しっかり積立投資などをすることが肝心だと思います。
最新刊の本にも書きましたが、現在の日本で購入できる長期投資に向いたファンド、つまり投資信託はほとんどありません。
長期投資に向いた投信とは、全世界に投資できて、購入手数料が0円といったコストが低いもの、さらに運用期間が無期限で、自分の口座から自動積み立てしてくれる…というような商品です。そういった大きく育ついい投信を積み立てる設定をして、あとはほったらかしで大丈夫、それが忙しい人でも、まとまったお金がなくても、誰にでもできる王道の投資法だと思います。
野尻 確かに長期で投資を実行していくことが、老後難民から抜け出せる方法だと思いますね。そして、運用で増えたお金を計画的に使っていく、こういったビジョンが見えるかどうかで、老後難民から抜け出せると思いますね。
(取材・文 鈴木雅光 撮影 宇佐見利明)