前回のデータで、退職後生活準備額が0円という人が、全体平均で44.8%もいることがわかりました。
本来なら、若いうちから計画的に老後資金を貯めるのが理想ですが、結婚資金、子どもの教育資金、住宅ローン、さらには親の介護資金など、資金需要がたくさんあり過ぎて、なかなか自分の老後資金を作れないという現実もあります。
無理なく、それでも確実に老後資金を作るには、どうすれば良いのか。フィデリティ退職・投資教育研究所所長の野尻哲史さんと、セゾン投信代表取締役社長の中野晴啓さんが、アイデアを考えます。

「老後難民」対策は
逆算で考える

野尻 今回の新著『日本人の4割が老後準備資金0円』では、世代別に老後難民にならないための対策を紹介しています。退職後に必要な資金を逆算して準備するという「逆算の資産準備」です。

中野 それはゴールを何歳に設定するのですか?

中野晴啓(セゾン投信代表取締役社長)1987年明治大学卒、クレディセゾン入社。セゾングループの金融子会社にて資金運用業務に従事した後、投資顧問事業を立ち上げ運用責任者としてグループ資金の運用のほか、外国籍投資信託をはじめとした海外契約資産等の運用アドバイスを手がける。2006年セゾン投信(株)を設立、2007年4月より現職。現在も全国各地で講演やセミナーを行い、社会を元気にするための活動とともに積み立てによる長期投資を広く説き続け、「積立王子」と呼ばれている。著書に『投資信託はこの9本から選びなさい』(ダイヤモンド社)、『預金バカ 賢い人は銀行預金をやめている』(講談社+α新書)ほか多数。

野尻 日本人の平均寿命を考えて95歳です。資産運用もしながら、お金を使っていき、人生の最期にちょうど資産が0になるというイメージです。

中野 投資に関連する本は山のように出ていますが、みんな「ふやす」ことだけに注力した本ですよね。資産運用をいつ止めれば良いのか、あるいは殖やしたお金を引き出す場合にどうすれば良いのか、という点にまで踏み込んで説明しているものは、ほとんどありません。野尻さんがおっしゃる「使いながら運用する」際のポイントは、どこにあるのですか。

野尻 まず、使うだけだと元本を減らしていく一方ですが、使うことに「運用する」ことを組み合わせると、使うだけに比べて元本が目減りするペースを抑えることができます。そうすることで、老後の準備金が0円になるのを先延ばしにするという考え方です。たとえば老後資金から年間4%を引き出すと共に、年3%のリターンで運用できれば、年間の目減りは1%に抑えられます。

中野 引き出す額は一定額ではなく、一定率で引き出すのですか。

野尻 はい、そうです。たとえば毎月10万円ずつ引き出すとするじゃないですか。この方法だと、運用が上手くいっている時は特に問題ないのですが、逆に保有資産が値下がりしている時には、元本の目減りをより早めてしまうのです。

 でも、定率で引き出すようにすると、元本が目減りした時にはその分、引き出す額も少なくなるので、元本の目減りを抑えられるのです。

中野 定率ということは、毎回、引き出す金額が変化するということですね?

野尻 ええ、たとえば投資元本が3000万円で、年120万円引き出すとしましょう。1年目は3000万円から120万円を引いた2880万円が残ります。その後、運用で2700万円まで目減りしたところで120万円を引き出すと、元本は2580万円です。

 対して、年間4%ずつの定率引き出しにすると、1年目は3000万円の4%で120万円を引き出すから2880万円が残ります。で、運用によって2700万円まで目減りしたところで4%の引き出しだと、引き出し額は108万円です。結果、2592万円が残ります。運用が上手くいかなかった時は多少我慢する必要はありますが、定率引き出しを心がければ、元本が目減りするピッチをかなり抑えることができるのです。

中野 積み立ては毎月1万円などの「定額」がよいとされていますが、引き出す場合は減るのを防ぐために「定率」がいいというわけですね。