ついに最悪のシナリオだったスタグフレーション(景気後退下での物価の上昇)が現実味を帯びてきた。原油価格が史上初めて1バレル135ドルを記録するなど、原油・資源市況の高騰が勢いを増し、製品・サービス価格への転嫁が進み始めたのだ。こうした物価高騰は、個人消費や設備投資の冷え込みリスクをこれまで以上に助長する。
何より深刻なのは、サブプライムローン問題に端を発した金融危機対策という側面があるとはいえ、米政府が引き続き巨大な流動性の供給という手法を取り続けると、それに新たなエネルギーを得た投機が猛威を振るう結果を招き、資源価格の高騰とインフレーションを加速し経済の足を引っ張るという悪循環を助長することである。
悪循環を絶つために有効とされる処方箋は、まず、利上げという薬を用いてインフレの根を絶ち健康体を取り戻すことだ。それから、景気の回復という懸案に取り組むという手順が肝要と言える。利上げは非常に苦い薬であり、強い反発が予想されるのは事実だ。多くのエコノミストはもちろん、各国の中央銀行も、その必要性を積極的に認めようとすらしない。しかし、世界経済が健全な成長軌道を取り戻すためには、米国だけでなく、国際社会として主要各国が協調して利上げを実施する以外に道はない。苦い薬を嫌って先送りを続ければ続けるほど、事態は深刻化し、予断を許さなくなる。
“主犯”は原油先物市場へ
流入した投機マネー
原油価格の高騰は、とどまるところを知らない。ニューヨーク・マーカンタイル取引所の原油先物取引市場で指標となっている米国産のWTI(ウエスト・テキサス・インターミディエート)7月物は、5月6日、1バレル当たり122ドル73セントと歴史上初めて120ドルの大台を突破したばかりにもかかわらず、22日にはさらに上昇し、ついに1バレル当たり135ドルを記録した。
原油価格は2001年12月から翌2002年1月にかけて1バレル当たり18ドル台と最近の底値を付けたあと、右肩上がりの値動きとなり、2006年夏に同75ドルを上回る高値を付けた。その後は同50ドル割れがあり、「実需からみた適正価格は1バレル当たり50~60ドル」(銀行系シンクタンクのエコノミスト)との評価が広がった。ところが、昨2007年には再び上昇に転じ、年間の平均が1バレル当たり72ドルで推移した。そして、今年に入って上げ足を加速、1月2日に初めて1バレル当たり100ドルを記録したのだ。