イラスト/びごーじょうじ
今でも広く読まれている『ファーブル昆虫記』はジャン=アンリ・ファーブルによる30年にも及ぶ観察記だ。ファーブルはかなりの長生きで、高い文学性を持つと言われるこの昆虫記を書き始めたのが55歳の時、63歳で再婚もして、晩年は体調を壊したが91歳まで生きた。
意外なことにこの『ファーブル昆虫記』。日本以外の国での人気はそれほどないようだ。フランス生まれのファーブルだが、母国での知名度も非常に低い。世界各国で出版されている本も抄訳がほとんどで、日本のように幾種類も完訳が出版されている国はないそう。そもそも欧州人は日本人のように虫を飼うということをまずしない。小さなものを愛でる心を持つ日本人にファーブルは特別受け入れられたわけだ。
ファーブルは普段、どんな食生活を送っていたのか。うかがい知ることのできる資料は少ないが、普段の食事は質素だったらしい。伝記に書かれている貧窮生活は後年に脚色されたものらしいが、つつましやかな暮らしが健康に寄与していた可能性はある。
食事をしながらも観察を続けていた、といわれているファーブルの長寿の源は絶え間ない好奇心だ。『ファーブル昆虫記』のセミの章には興味深い記述がある。アリストテレスが殻を破る前のセミは美味だ、と書き記していることに触れ「『味わい極めて甘美なり』という食欲をそそる形容の言葉は本当に事実だろうか」とファーブルは真偽を確かめるべく実際に試食している。