地域から愛される会社になるために
「新・里山資本主義」を実践
藻谷浩介氏のベストセラー『里山資本主義――日本経済は「安心の原理」で動く』では、生活拠点の近くにある里山を資本と考えます。
この資本を循環させ、大事に育てながら、使える分だけ使っていきます。
なんでもかんでもお金を出して買うのではなく、生活に必要なものは里山で育て、採ってくる、あるいは物々交換して調達します。
里山を資本と捉え、活かすという点では私たちも同じです。
私たちは、荒れていた地域の里山再生を行い、そこを活かして地域社会におもてなしをしたり、環境教育の拠点にしています。
こうして企業ブランドを高めることで、しっかり利益をあげながら、地域や行政、お客様に貢献し、地域に必要な企業を目指しています。これを私は、「新・里山資本主義」と呼んでいます。
宝の山を復元する方法
里山再生の作業は、もともとはなかった針葉樹を間伐することから始まります。間伐とは、木を間引くこと。森林は苗木を植えてから15年くらい経ち、木が生長してくると、お互いの枝葉が重なってそれ以上成長できなくなります。
そこで、一部の木を間引き、残された木が成長できる空間をつくります。
間伐をすることで日光が地面まで届くようになり、林の中が明るくなります。外来種の下草を抜くのも重要な作業です。
ただし、間伐をすると、森の中に差す光が変わり、風通しが変わります。
すると、下草の草花の生態が変わっていきます。徐々に絶滅危惧種であるシュンランや、オオバのトンボソウなどが増えていきます。
厳密に言うと、里山再生のプロジェクトと、生物多様性を復元するJHEPの取り組みはまったく違います。
生物多様性を復元するということは、森の中で暮らす植物や動物に注目し、彼らにとってできるだけ住みやすい環境をつくるということ。
たとえば、昆虫が住みやすいように落ち葉を掃きすぎないなど、生き物にとってやさしい環境を目指します。
一方、里山再生は農用林の復元であり、農家の人たちの生活に合わせた環境をつくるということ。
農家の人たちは、自分たちの生活に必要なものを必要なときに使うわけですから、生物多様性という考え方はありません。落ち葉を無駄にせず堆肥にするとか、ホダ木をつくってしいたけを育てるとか、非常に合理的なのです。
だから敷地内には、生物多様性を保全する目的の森と農用林が同じくらいの割合で混在しています。一般の人たちはすぐには気づきませんが、農家の人は見た瞬間、その違いに気づいてくれます。