まったく業界を知らない男が
最大のヒット作を作る
佐藤 ものを知らなくても、仕事を成功させることもできますよね。8年ほど前、ドコモのNシリーズというNECの携帯電話のデザインを手がけることになりました。僕にとっては、それがはじめてのプロダクトデザインでした。当時はまだガラケーだったので、形は折りたたみ式の携帯電話です。打ち合わせにコンセプトモデルを持って行ったら、あくまでコンセプトを提示するためのものなので、仕上がりのイメージとして出したのですが、そしたらNECの方が「ヒンジはどうしますか?」と聞くんです。携帯電話の折りたたむ金具の部分を「ヒンジ」と呼ぶらしく、それをデザイン的にどう処理するのかが仕上がりのイメージを左右する大きなポイントだったのです。だけど僕はヒンジという言葉が分からないから「ヒンジってなんですか?」と言ったら皆さんに「えー!?」と言われて。
(会場・笑い)
佐藤 で、NECの方にヒンジを教えてもらいました。業界的には「ヒンジも知らない男」だったと思いますが、そんな僕がデザインした携帯電話が、NEC史上最も売れた携帯電話になった。だから、ヒンジなんか知らなくても、あ、もちろん知っていた方がいいんですが、その単語を知らないところで、失敗するということではないのです。
(司会者) 最終的なエンドユーザーは、「ヒンジ」のことなんて知らないですしね。
佐藤 知らないし、ヒンジを見て買ったりしないですよね。
(司会者) 会場の方の質疑応答も盛り上がりましたね。今日はありがとうございました。
「たとえ無知だとしても、この人に何かを任せてみよう」そう思わせる魅力が、佐藤可士和さんにはあるのだろう。クライアントから信頼を勝ち取るのは日々のちょっとした知ったかぶりをしない態度だったり、何でも発言する勇気だったり、日々の真剣勝負の打ち合わせの積み重ねなのかもしれない。そう考えると、僕らでも真似をしようと思えば難しくないことかも。とにかく『佐藤可士和の打ち合わせ』に書いてあることを実践して、あなたのビジネスにお役に立てていただければ幸いだ。