少数のビッグ・リーダーが組織を動かす時代は過去のものになりつつある。経済環境の変化をふまえ、企業組織では権限委譲が進み、必然的に数多くのスモール・リーダーが求められるようになった。リーダーシップが生得的なものであるならば、条件にかなった人材を採用することが最良の解になるが、実はリーダーは育成することができる。今回は、リーダーシップ開発について解説する。

リーダーには
問題解決力が求められる

 リーダーシップ研修で行われる演習に次のようなものがあります。

 まず、研修講師は自分が用意した「りんご」を右手で取り、自分の目の高さまで持ってきます。次に、その「りんご」を自分の手から離します。そうすると、「りんご」はもちろんそのまま下に落ちます。最後に、研修講師は「どうしてりんごは落下するのでしょうか? その理由を教えてください」と、研修参加者に質問します。みなさんだったら何が原因で「りんご」が落下したと回答するでしょうか?

 多くの研修参加者は、「りんご」が落ちた原因は重力にあると答えます。それはもちろん事実なのですが、研修講師が聞きたいのは、別の答えです。それは何だと思いますか?

 それは、「研修講師が手からりんごを離したからです」という回答です。つまり、事が起こる原因は外部環境(重力)にはなく、自分(研修講師)にあるということなのです。言い換えると、他責ではなく、自責の姿勢を持てるかを確認するのがこの演習の目的なのです。

 何か問題が発生したり、課題があったりする場合に、外部環境のせいにするのではなく、全て自分の責任にできるかがリーダーには問われます。このことを、リーダーシップの権威であるジョン・マックスウェルはヨットの操縦にたとえて、次のように述べています。

 「悲観主義者は風が悪いと文句を言い、楽観主義者は、風が良い方向に吹き始めることを期待する。しかし、リーダーは帆を風向きに合わせる」。 現状をしっかり認識し、あるべき未来に向かって、自ら行動を起こし、現実を変化させていくのです。

 また、学部レベルの先進的なリーダーシップ教育で知られる立教大学経営学部の日向野幹也教授は、「不満を提案に変えるのがリーダーシップ」と表現されています。要するに、リーダーは、車のハンドルを握って運転するドライバーで、決して助手席に座って文句を言っている人であってはならない、ということです。問題解決力がリーダーには求められると言っても良いかもしれません。