厚労省の介護保険改訂の審議が大詰めを迎えた。消費税の10%アップが見送られたこともあり、介護サービスの総報酬が9年ぶりに引き下げられる。審議会委員や介護業界からは撤回を求める声が一斉に上がったが、総報酬はあくまで政治判断。予算編成の中で決まるため審議会としては立ち入れない。

 そこで、2014年の春先からからの審議過程を振り返り、改訂されるサービス内容を点検していく。高齢者ケアの最大課題である認知症に焦点を当てた。

消費増税の延期で
社会保障財源は5000億円弱も減少へ

 介護サービスの見直しを審議していたのは社会保障審議会介護給付費分科会。夏から毎月2、3回の集中審議を重ね、年内最後の12月19日には論点の取りまとめに入ると同時に厚労省から新しい改定案が示された。目を引くのは、特別養護老人ホーム(特養)と通所介護(デイサービス)の報酬引き下げである。

 サービス内容の改定案に入る前に、報酬の値下げについて関係官庁や業界の主張などを整理しておこう。

 同審議会の4日後に開かれた経済財政諮問会議では、改めて消費増税分を財源に想定していた介護サービスの絞り込みが確認された。安倍首相は「社会保障の自然増も含め、聖域なく見直しを行う」と歳出削減を念頭に置いた考えを強調。だが、かつての小泉首相時代の「社会保障費の伸びを年2200億円抑制する」といった目標数値を明示するほどの意気込みはなさそうだ。

 とはいえ、何しろ予算全体の3割超を超えるのが社会保障費。2013年度予算の30兆5000億円を上回るのは必至である。あてにしていた消費増税が延期されたため社会保障財源は5000億円弱も減ってしまい、介護報酬を引き下げが現実味を帯びてきた。

 かねてから予算編成にあたる財務省は引き下げ幅を6~4%台と主張。これに対して厚労省は1%程度に抑え込みたい意向だ。1%値下げすると、投入する税は260億円削減できる。

 介護報酬は、3年ごとに見直される介護サービスと併せて改訂されてきた。2015年から始まる3年間はその第6期目にあたる。2014年度の介護保険総費用は約10兆円に達しており、介護保険が始まった2000年度の3兆6000億円から大きく膨らんでいる。もし1%引き下げると、税や保険料、1割の利用者負担分など合わせて1000億円が浮く。

 だが、介護事業者への収入がそれだけ減額されることになり、人手不足の深刻化に拍車をかけ、現場のサービスの質にも影響しかねない。介護職員の平均賃金は月約22万円で、同32万円の全産業平均との開きがなお進みそうだ。

 大幅な減額を唱える財務省がその根拠としているのは、特養やデイサービス事業者の「儲け過ぎ」の実態である。収入と支出の差である「収支差率」が特養で9%近く、デイサービスで10%強。一般の中小企業の利益率2.2%(13年度)を大きく上回っている。

 さらに、財務省は介護職向けに新たに「処遇改善加算」を設ければ、月1万円の給与アップが可能として、賃金の値下げにはつながらないと説明している。

 厚労省、介護業界側と財務省、官邸の攻防戦が年明け以降も続きそうだ。2015年1月には決着がつく。