後世の日本人が振り返ると、2014年は日本の歴史の転換点だったと評されるかもしれない。7月には、安倍政権が集団的自衛権行使容認の閣議決定を行った。どのような限定をつけようとも、外国で戦争する権利を認めたことに間違いはない。経済面では順調に見えた「アベノミクス」が4月の消費増税で腰折れし、結局、15年10月からの再増税を1年半先延ばしする決断をして、12月の総選挙になだれ込んだ。結果は、与党である自民・公明両党が圧勝し、アベノミクスを信認した形となった。

さて、来る15年は戦後70年の節目でもある。増税再々延期という選択肢を断ったアベノミクスはまさに正念場を迎える。集団的自衛権ではいよいよ関連法の改正が行われ、具体的な姿が浮かび上がってくるはずだ。わが国のエネルギー構成をどうするかも決めなければならない。安倍・習会談で関係改善の糸口をつかんだ日中関係はどうなるのか。世界情勢を見れば、原油価格の暴落が暗い影を投げかけている。平和でやさしいイメージの未(羊)年とは打って変わって、課題山積。そこで著名な経営者、識者の方々にアンケートをお願いし、新年を予想する上で、キーとなる5つのポイントを挙げてもらった

(1)原油価格急落の経済面の効果とリスク

最大の注目点は原油価格急落の“光“と“影”<br />――三菱総合研究所チーフエコノミスト武田洋子氏たけだ・ようこ
三菱総合研究所政策経済・研究センター・チーフエコノミスト。 ジョージタウン大学公共政策大学院修士課程修了、1994年日本銀行入行。日本銀行では海外経済調査、外国為替平衡操作、内外金融市場分析などを担当。2009年三菱総合研究所入社。専門はマクロ経済、国際金融。社会保障審議会年金部会委員、年金財政における経済前提と積立金運用に関する専門委員会委員等。

 第1に、原油価格40ドルの下落は生産国から消費国へ、年間1.3兆ドルの所得移転効果を持つ。原油輸入国の日本は利益を享受する側だ。仮に原油価格が60ドル/バレルで推移すれば、日本の実質GDP成長率は+0.1%押し上げられよう。

 もっとも、プラス効果だけとは限らない。第2の波及として、国際金融市場の不安定化がある。14年12月の原油価格急落時、市場ではリスク回避姿勢が強まった。その帰結がルーブル売りの加速だ。経済制裁と原油安によるロシア経済悪化への懸念から、金利が急騰、資本流出を招いた。

 ロシアは1998年に通貨危機に陥った経験がある。安心材料は、外貨準備が4189億ドル(2014年11月)と前回危機前(1997年末178億ドル)に比べ潤沢な点だ。だが、ロシアにおけるドル建ての海外からの借入れ主体は、その大部分が民間企業であり、通貨下落が続けばこれら民間企業のデフォルトリスクが高まる。2015年、経済危機が発生しないと断定できる根拠は十分とは言えず、目が離せない。