根拠なき
「引き下げ」既定路線

 この報告書の「結論および結論を踏まえた方針」と読むことの可能な部分「4 住宅扶助特別基準の検証結果に関する留意事項」を見てみると、ここには「見事に」といってよいほど、「現在の『生活保護の住』の貧困を解決するために住宅扶助を見直す」という方針は見受けられない。7ページで示された認識は、いったい何のためだろうか?

「厚生労働省において住宅扶助特別基準の見直しを検討する際には、上記3の検証結果を考慮するとともに、以下の点についても留意する必要がある」

 見直しを「行わない」とは述べていない。では、どういう見直しなのだろうか?

「検証で使用した住宅・土地統計調査のデータは、平成 20 年 10 月1日時点のものである。(略)調査後の市場家賃の動向を勘案した上で、住宅扶助特別基準の見直しには十分な注意を払う必要がある」

 生活扶助引き下げのために「生活扶助相当CPI」という独自指標を持ち込んだときのように(本連載政策ウォッチ編・第21回参照)、「市場家賃の動向を勘案」したとして引き下げを行う、という可能性は濃厚そうだ。

「特に、東日本大震災後に、家賃相場が上昇している地域において、住宅扶助特別基準の範囲内で適切な住宅を確保可能な水準となるよう十分に留意することが必要である」

 被災地の状況も一応は考慮されているようではある。しかし「適切な住宅が存在する住宅扶助特別基準である」ということと、その住宅に生活保護利用者が入居して生活を営むことができるということには、直接の関係はない。この「実際に生活保護利用者が入居できるのか」についての具体的な配慮は、報告書からは見いだせない。

「今回の検証結果を反映させた場合の住宅扶助特別基準が、現行の住宅扶助特別基準から大きく減額となる場合は、生活保護受給世帯の生活の維持に支障が生じることなどが懸念されるため、激変緩和の観点から、減額幅には一定の上限を設けるなどの措置が望まれる」

 ここまで読んできた筆者は、深く深くため息をついた。厚労省の「引き下げる」という意思を読み取らずにいることはできない。

 その箇所以後は、引き下げを前提とした「配慮」「措置」といったものばかりである。内容は、

・家賃が変わらない限り、住宅扶助が引き下げられれば、それまでの住宅扶助との差額が生活扶助等から持ちだされることになり、「健康で文化的な最低限度の生活」が維持できなくなる。このため、次の契約更新時までは住宅扶助引き下げを猶予するなどの経過措置を検討する

・貸主が家賃額の値下げを了承しない場合には、転居を可能とする(生活保護利用者本人にとっては、「転居か、生活扶助等からの持ち出しか」のいずれかの選択を迫られるということである)。

・現在の住宅に住み続けることが「自立助長」の観点から必要と認められる場合には、現在の住宅扶助費の適用を認める

 といったものである。もはや「厚生省は『見直し』の結果として引き上げも行うかもしれない」という期待は全くできない。まことに気の滅入った筆者を、最後の一節がノックアウトした。

・住宅扶助引き下げは、貸主の生活に大きく影響する。このため、厚労省と自治体は(具体的には福祉事務所は)、貸主や管理業者に引き下げの趣旨を周知し、理解を得る。

 生活保護利用者は、「生活保護」以外にも数多くのハンディキャップを抱えていることが多い。無職であったり、高齢者であったり、障害者であったり、病気を抱えていたり、何人もの子どもがいる一人親であったり。「生活保護であることだけは隠して、やっと審査を通過して契約と入居が可能になった」というケースは少なくない。また、「近々、生活保護申請を余儀なくされそうだから」という判断のもと、最後の一財産を使ってアパートに入居し、その後で生活保護を申請した例も多い。生活保護であることを隠して、やっと「健康で文化的な最低限度」にも足りない生活を維持できている人々は、家主に「生活保護」と知られたらどうなってしまうのだろうか? 「生活保護がバレた後で家主にハラスメントされている」という事例は、実際に存在する。そして、そのような理由では、なかなか転居が認められない地域も少なくない。

 それでなくても、現在でも不十分な住宅扶助がさらに引き下げられるということ、本人の身体と生活を守る「住」がさらに貧困になることは、まぎれもない健康や生命の危機に直結する。私は、現在より数千円の住宅扶助引き下げによって即刻、危機的な状況に陥りかねない生活保護利用者たちの何人かの姿を、住まいや生活環境とともに思い浮かべ、自分の無力さに深い悲しみと怒りを覚えた。

 そうこうするうちに、事務局の説明が終わり、部会委員たちによる議論が始まった。

「住宅扶助・冬季加算の引き下げをめぐる攻防(下)」に続く