私たちは今、衣食住や移動に関する不足や不自由から解放された。つまり21世紀を生きる人類は、時間的にも精神的にもこれまでにない自由を得つつあるのだ。今人類は、この自由をどのように享受できるかを問われており、それこそがこれからのフロネシス(実践の知)のテーマなのである。物質的な豊かさが飽和する時代に、新しい成長のフロンティアを拓くことはたやすいことではない。その鍵は、この新しい自由をいかに生きるかという挑戦の中にある。(聞き手/ダイヤモンド社・岩崎卓也、フリーランスライター・奥田由意)

自由とイノベーションの関係

――新時代を切り拓く知的な取り組みとして、以前からシンギュラリティ大学に注目されていますね。

小宮山:シンギュラリティ大学は2008年に、人工知能(AI)研究で知られる発明家、レイ・カーツワイルと、民間で世界初の有人宇宙飛行を成功させた実業家、ピーター・ディアマンディスらが中心となり、米国のシリコンバレーにあるNASAのリサーチセンター内に、グーグルやノキアなどの出資を受け設立された研究機関です。

 人間の抱えるさまざまな課題は指数関数的に進展するテクノロジーにより、全て解決できるという信念に基づき、人工知能、応用コンピューター、バイオテクノロジー、ナノテクノロジーなどの分野で、時として荒唐無稽とも映りかねない、未来を見据えた取り組みを行っています。

 彼らが人類の課題として定義しているのは、水、食糧、エネルギー、教育、健康、環境です。つまり、指数関数的に進展する技術を動員することで、人類が基本的に必要とするものはすべて満たされ、豊饒な世界が実現できるという考え方で取組んでいるのです。

 例えば、火星のテラフォーミング(惑星を人類が生存可能な状況に改造すること)、惑星間インターネット、脳内ナノロボットなどの実現に向けて研究を進め、それらの課題、限界を乗り越えようとしています。